これが16歳の子供にすることか…激しい拷問受けたシリア男性、トルコ国境で語る期待と不安「希望持ち続けたい」
読売新聞 / 2024年12月19日 7時5分
勢力乱立、治安・経済安定せず
アサド政権崩壊を機に、国外に逃れていたシリア難民が帰郷し始めた。隣国トルコの難民は家族で安心して暮らせるか見極めようと、第1陣として若い男性だけが帰国するケースが多い。シリアは様々な勢力の支配地域が広がり、安定した統治が課題だ。多くの難民はトルコに当面とどまるとみられる。(トルコ南部ジルベゴズ 西田道成)
「早く故郷見せたい」
トルコ南部ハタイ県のジルベゴズ検問所には13日、スーツケースや家財を運ぶシリア人が出国手続きの列に次々と加わった。支援団体が提供する紅茶やスープを受け取ると笑みを浮かべ、新生シリアへの期待に胸を膨らませた。
父子2代にわたり独裁を続けたアサド政権への不満から、シリアでは2011年に反体制運動が広がり、内戦に発展した。政権は大量殺害や拷問、処刑で弾圧した。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のまとめでは、内戦の長期化で外国に逃れたシリア難民は12日現在、約481万人に上り、トルコには6割の約293万人が暮らす。
支援団体などによると、難民は検問所で手続きを終えた後、緩衝地帯に入り、シリアの暫定政権を主導する旧反体制派「シャーム解放機構」が用意した車に分乗して目的地に向かう。
13年前に北部アレッポから逃れてきたムサさん(34)は家族6人で帰国すると決めた。「きっとこれから良くなる。トルコ生まれの子供たちに早く故郷を見せたい」と声を弾ませた。ただ、弾圧の時代を知るだけに「今後も何が起こるか分からない」と警戒している。
男性1人で確認
オマルさん(30)も13日、ジルベゴズ検問所を訪れた。イスタンブールに残してきた家族のため、アレッポの自宅へ1人で状況を確認しに行くという。
オマルさんは16歳の時、父が反体制的だとみなされ、ともにアサド政権の治安当局に連行された。待っていたのは、激しい拷問だった。肺を痛め、手術を受けた。今も片頭痛の後遺症が残り、痛み止めの薬が手放せない。上着を脱いで右わきの大きな縫合痕を指すと、「これが16歳の子供にすることか」と涙を浮かべた。
アレッポの状況が落ち着いたら家族を呼び戻し、レバノンに避難した恋人にプロポーズする予定だ。「あらゆることが不確かなままだけど、希望は持ち続けたい」と気丈に話した。
1日最大1000人
トルコはシリア難民の出国手続きを迅速化している。英BBCは13日、検問所の人員や施設が増え、1日あたり2万人が通過可能になったと報じた。ただ、通過しているのは1日最大1000人程度で「大規模な帰還には至っていない」(トルコの地元当局関係者)のが実情だ。
シリアの治安や経済の先行きに不安があり、多くの難民が帰国に慎重な姿勢を崩していない。一度トルコを出ると一時保護の資格を失い、当局の意向次第で入国できなくなる可能性があるため、帰国のハードルが上がっているようだ。
トルコ南部アンタキヤの建設会社に勤めるシリア中部ハマ出身のジェイラル・ヤシンさん(27)は、イスタンブールにいる家族と話し合い、トルコに残ることにした。アサド政権時代に約50人いた親戚の半数が殺害され、「まだ怖い。公正な社会が作られるまで帰れない」と打ち明けた。
南部アルトゥノジュでパン店を営むハマ出身のナデル・アルシクさん(35)も帰国は「時期尚早」と判断した。昨年2月のトルコ・シリア地震で被災し、今はコンテナ住宅暮らしだが、「安定した生活を簡単に手放せない」と話す。
UNHCRは17日、シリアで旧反体制派が11月27日に反攻を始めてから国内で新たに100万人以上が家を追われたと発表した。一方、トルコやレバノンなどに逃れていた難民らの帰国は数千人にとどまる。
トルコは帰国促す
アサド政権と対立していたトルコは難民を積極的に受け入れてきた。しかし、18年に急激な通貨リラ安などで経済が低迷すると、シリア難民は安価な労働力として雇用を奪うなどとして風当たりが強まった。エルドアン政権には、難民の帰国を促すことで国民の批判をかわす狙いがある。
トルコで繊維業や建設業などに従事するシリア人は50万~100万人に上るとされる。帰還が本格化すれば労働力不足や労賃の上昇からインフレ(物価上昇)を招くとの見方もある。エコノミストのタイラン・ビュクシャヒン氏は「多数のシリア難民が帰国すれば、トルコ経済に負の影響が出る」と指摘した。
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