税制改正大綱 無責任な楽観論は慎むべきだ
読売新聞 / 2024年12月21日 5時0分
税制を改めれば、恩恵を受ける人と負担が増える人が出てくる。一人ひとりの負担能力に応じ、均衡の取れた税制を決めるのが政治の役割だ。
財源を考えずに大幅な減税を唱えるだけでは、ポピュリズム(大衆迎合主義)でしかない。今回の「年収103万円の壁」を巡る議論を、公平な税負担はどうあるべきかを考える契機としたい。
自民、公明両党が、来年度の与党税制改正大綱を決めた。
大綱には、所得税がかかり始める103万円の水準について、2025年から123万円に引き上げる方針が明記された。今の課税水準となった1995年以降、食費や光熱費などの家庭の支出が2割上昇したことを踏まえた。
物価高が長引く中、30年間据え置かれてきた非課税枠を引き上げるという判断は理解できる。
もっとも、今回の大綱は最終的な決着ではない。
少数与党は、178万円への引き上げを求める国民民主党の協力をつなぎとめるため、大綱に「引き続き
政府は年明けの通常国会に、大綱を反映した税制関連法案を提出するが、3党の協議次第では修正される可能性がある。
国民民主の要求通り、非課税枠を178万円に引き上げた場合、減収は7兆~8兆円に上る。与党が決めた123万円の場合でも、数千億円の減収となる。
それを増税なしで穴埋めしようと安易に国債発行に頼れば、今の若者を含めた将来世代にツケを回すだけで、妥当とは言えまい。
一方、大綱には、防衛力強化の財源を確保するため、たばこ税と法人税を2026年4月から増税する方針が明記された。
岸田前政権は2年前、防衛費の拡充のため、法人税と所得税、たばこ税を増税し、年1兆円の財源を賄う方針を決めた。24年度からの実施を想定していたが、自民党内で世論の反発を恐れる声が強まり、先送りが続いていた。
今回、3税のうち所得増税は見送ったものの、ようやく財源確保に道筋が付いたことは前進だ。
自民や国民民主内には、国の税収が伸びていることを理由に「増税しなくても防衛予算の拡充はできる」といった声がある。
税収は多少伸びているからといって、国のお金が余るようになったわけではない。無責任な楽観論は控えねばならない。
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