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「地獄のような苦痛を伝えたい」…知床観光船事故の民事訴訟、原告13人が心境語る異例の法廷に

読売新聞 / 2024年12月21日 7時45分

 観光船「KAZU I(カズワン)」沈没事故の犠牲となった乗客家族による民事訴訟は20日、提訴から5か月を経てようやく第1回口頭弁論の期日が決定した。札幌地裁が指定した開廷時間は、来年3月13日の午後1時半。計29人の原告のうち、意見陳述を希望した13人全員が代わる代わる現在の心境を打ち明ける異例の法廷となる。

 乗客家族の弁護団によると、当日はまず原告側が訴状、被告側が答弁書をそれぞれ陳述し、続いて裁判官が証拠書類を確認する。「陳述」と言っても実際に書面を読み上げるわけではなく、この部分の手続きは数分で終わる見通しだ。

 その後は乗客24人のうち、6人の家族に意見陳述の時間が与えられる。原告数では13人。事前に弁護団が希望を募って地裁に申請したところ、希望者全員の陳述が認められたという。

 意見陳述は一家族につき20分程度を予定しており、全国各地から札幌に足を運ぶ原告の負担を考えた結果、第1回口頭弁論の日に一括して行うことになった。被告側は当日、運航会社「知床遊覧船」社長の桂田精一被告(61)(業務上過失致死罪で起訴)も出廷する可能性があるという。

 事故で息子(当時7歳)と元妻(同42歳)を失った帯広市の男性(52)も意見陳述を予定する1人。期日指定を受け、「家族に会いたくても会えない地獄のような苦痛を伝えたい。少しでもこの苦しみを理解してもらいたい」と語った。

 「安全な船旅を提供できなかった賠償責任があることは認めるが、賠償請求は棄却されるべきだ」。今回の訴訟の被告のうち、法人としての知床遊覧船はこんな反論をしている。

 乗客家族の弁護団は、〈1〉犠牲者の逸失利益(生きていれば得られたはずの収入)〈2〉乗客本人や家族の慰謝料――などを計算して計約15億円を損害賠償の額としたが、「原告の計算には根拠がない」という主張だ。

 原告側の計算は、国の運輸安全委員会が同社の安全管理体制の不備を多岐にわたって指摘したことを踏まえ、「悪質性に連動して慰謝料も増額されるべきだ」との見解に基づく。

 一方、被告側は「運輸安全委員会の見解をそのまま追認することは許されない」としており、今後の審理では、「沈没の経緯と原因」を含む事実関係が徹底的に争われる可能性が高い。桂田被告個人の賠償責任についても、「桂田社長が事故を予見するのは困難だった」などとして争う方針だ。

 ◆観光船「KAZU I(カズワン)」沈没事故=2022年4月23日午後1時20分過ぎ、カズワンが「カシュニの滝」付近で沈没し、乗客24人のうち18人と船長、甲板員の計20人が死亡、乗客6人が行方不明となった(後に家族が死亡届を提出)。当日は早朝から強風・波浪注意報が出ており、釧路地検は今年10月、「天候悪化に伴う死傷事故を予見し、運航を中止させるべきだった」とする業務上過失致死罪で桂田被告を起訴した。

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