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知的障害がある受刑者の社会復帰へ、社福が支える「長崎モデル」成果…7回服役の男性「もう戻りたくない」

読売新聞 / 2024年12月21日 16時23分

受刑者に対して復帰支援を行う南高愛隣会の職員(長崎県諫早市で)

 知的障害のある受刑者の社会復帰支援に向けて、長崎刑務所(長崎県諫早市)が取り組むモデル事業が効果を上げている。国内の刑務所で唯一、復帰支援の専門部署が置かれ、地元に障害者の就労支援に取り組む社会福祉法人があることから、約2年前に開始。法務省などが今月まとめた中間報告では、居住先の確保などで「一定の成果」が得られたと分析しており、全国の刑務所へ拡大することを検討する。(上山敬之)

開始から2年

 モデル事業は、知的障害があり、刑務所への入所を繰り返す受刑者を対象に、自治体や民間と連携して居住先の支援や本人の意識改善を図ることを目的に、2022年6月から始まった。

 事業を担うのは、19年4月に同刑務所に設置された「社会復帰支援部門」。障害者の就労支援や更生保護施設の運営に取り組んでいる社会福祉法人「南高愛隣なんこうあいりん会」(諫早市)に業務の一部を委託し、障害の程度に応じたプログラムを実施している。

 絵画などによる感情表現や、集団での農園芸作業を通して対人関係の築き方と協調性を学ぶプログラムなどが用意されているほか、刑務作業についていけない受刑者の練習機会も設けている。社会に出てからの支援の求め方や金銭管理、盗みを踏みとどまることを学ぶ「犯罪防止学習」は全員が受講する。

「全国に拡大」

 現在、プログラムを受講している受刑者は、福岡矯正管区内の刑務所から長崎刑務所に集められた約30人(定員50人)。多くは生活苦を理由に万引きなどの窃盗罪で服役し、入所と出所を繰り返している。

 受講する男性受刑者(50歳代)は読売新聞の取材に「これまでの服役では、ここまでしてもらえなかった」とこぼした。万引きや住居侵入などで7回目の服役。軽度の知的障害があり、言葉での表現や金銭の管理が苦手だという。プログラムでは出所した後に支援を求める方法も学び、「もう刑務所には戻りたくない」と語った。

 長崎刑務所の職員の中には作業療法士や公認心理師の有資格者もおり、受刑者の出所までに居住予定のグループホームなどの支援者や地域生活定着支援センターなどを交え、社会復帰後の福祉支援などを決める。支援が受けやすくなる療育手帳の取得手続きを進めるケースもあるという。

 法務省の中間報告によると、9月までにプログラムを受講して社会復帰した28人のうち、居住先を確保できたのは27人で、19人は仮釈放を認められて出所。居住先を確保した人(96・4%)と仮釈放で出所した人(67・9%)の割合は、22年の全国平均よりそれぞれ10ポイント以上高くなっており、「個別の特性に応じた処遇や多角的支援で、一定の成果が見られる」と評価している。

 同刑務所の村上正剛所長は「対象者のほとんどが前向きに取り組み、福祉支援を受けて社会復帰を望む者が増えてきている」と手応えを語る。法務省矯正局の滝山直樹専門官は「課題も踏まえて全国的に広げていきたい。幅広いノウハウを持つ事業者は少ないが、プログラムごとに民間団体と協力していくなど方法を探っていければ」としている。

大阪、発達障害支援手厚く

 法務省が20日に発表した「犯罪白書」によると、2023年の刑法犯の検挙者数は前年比8・2%増の18万3269人。このうち再犯が全体の47・0%を占める。刑務所に入所する受刑者のうち、入所が複数回となる割合も55・0%に上り、再犯防止が課題となっている。25年6月には、更生に向けて禁錮刑と懲役刑を一元化した「拘禁刑」も導入される。

 障害のある受刑者については、大阪刑務所でも今月、発達障害への医療支援を充実させる取り組みが始まった。長崎刑務所の事業にも関わる日本福祉大の山崎康一郎准教授(社会福祉学)は「受刑者と刑務官が障害について、より深く考えるようになったことは大きな変化。刑務所にはこれまでの責任に加え、福祉の役割が強く求められている」と指摘している。

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