海自艦艇部隊の「特定秘密」、1000人無資格のまま…戦闘指揮所の急場しのぎ続く
読売新聞 / 2024年12月22日 14時40分
海上自衛隊の艦艇部隊で「特定秘密」が違法に取り扱われていた問題で、海自が新たに資格を取得させる必要があると判断した隊員約2000人のうち、半数がまだ取得できていないことがわかった。手続きに時間がかかっているためで、現場では急場しのぎの対応が続いている。(溝田拓士)
資格取得に4か月から半年
「急ピッチで進めて年度内にはなるべくゼロにしたいと思っているが……」。海自の情報保全を担当する幹部はそう話す。
適性評価を受ける隊員らは、数十枚に及ぶ「質問票」に身上や経歴を書き込んで申請する。審査では必要に応じて面接や公的機関への照会も行われる。隊員のプライバシーにも踏み込むため慎重に進められ、海自では書類を提出してから資格を得るまでに4か月から半年程度かかる。海外で活動していた隊員はすぐに書類を出せず、11月末までに資格を得られた隊員は約1000人にとどまる。
防衛省は7月、陸海空の自衛隊などで特定秘密を巡る不正事案が計58件あったと発表。海自は最多の45件を占めた。特定秘密保護法の解釈を誤り、多くの艦艇の戦闘指揮所(CIC)で無資格者が特定秘密を知り得る状態になっていた。
海自は対策として、CICに出入りするすべての乗組員に適性評価を受けさせることを決定。対象者を全海自隊員(約4万2000人)の約5%にあたる約2000人と見積もって審査を進めた。「対応する人員を増やしているが、業務量も膨れ上がっている」。この幹部はそう打ち明けた。
無資格者は戦闘指揮所に立ち入り禁止
護衛艦の運用に不可欠な情報が集約されるCICは艦艇の頭脳とも言える空間だ。コンピューター画面にはレーダーで収集した艦船の航跡情報などの特定秘密が表示され、秘密を含む言葉も頻繁に飛び交う。
海自の艦艇部隊では、特定秘密が表示されるモニター付近に無資格者を近づかせないようにするなどしていた。しかし、特定秘密を扱う際は、同じ空間に無資格者がいると「知り得る状態」となり、違法と判断される。海自の対応は不十分だった。
問題の発覚後、有資格者には識別票を身に着けさせるなどし、特定秘密を扱う際はCICへの無資格者の立ち入りを禁止した。その結果、CIC内で勤務する隊員の業務負荷が上がっているという。
さらに艦橋に特定秘密を表示する装置を置いていた一部の艦では、その機材を撤去した。艦橋に無資格者も出入りするためだ。
艦長は基本的にCICで指揮を執るが、艦橋に移った時でも状況をリアルタイムで把握する必要がある。艦橋では伝令の形で報告を受けることになり、意思決定のスピードに支障も出ているという。
管理システムの導入、段階的に
防衛省は今後、適性評価の申請や登録などを管理するシステムの導入を段階的に進める。機密情報を扱う区画への入退室も一元的に把握できるようにする。人的ミスをなくす狙いで、担当者は「早期完成を目指す」としている。来年度予算の概算要求でシステム構築に向けた調査研究費約1億円を計上している。
◆特定秘密=防衛や外交、スパイ防止、テロ防止で特別に秘匿が必要な情報。特定秘密保護法に基づいて指定される。家族関係や犯罪歴、経済状況などを確認する「適性評価」を受けて、漏えいの恐れがないと認められなければ取り扱うことができない。漏えいした場合、最高で懲役10年の刑事罰が科される。
人手不足で隊員への負担増「おざなりのツケ」
海自が新たに約2000人もの隊員に適性評価を受けさせていることは、長年にわたり、情報保全体制をしっかりと整備してこなかったツケが回ってきた格好だ。
自衛隊には、特定秘密保護法が施行された2014年以前から、自衛隊法に基づく防衛秘密の保全業務があった。ある防衛省幹部は「情報保全にかかわる運用を工夫する時間は十分にあったはず。対応がおざなりになっていたのでは」と疑問を口にする。
中露の軍事活動が活発化する中で海自の任務は増加し、人手不足で隊員の負担は増している。特定秘密が不適切に取り扱われていた背景には、海自の慢性的な人手不足もあると指摘されている。
自衛艦隊司令官を務めた湯浅秀樹氏は「資格を取得する手続きや、有資格者の管理の簡素化を図り、現場の負担を少しでも減らさなければ隊員はさらに疲弊する」と語る。
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