生成AIでブレストは日常化、文章作成力の養成に懸念…AI指針まとめた鳥取県で見えた効果と課題
読売新聞 / 2024年12月22日 14時20分
全国の自治体で、生成AI(人工知能)の業務への活用が広がっている。業務効率化が期待される一方、誤情報などのリスクも指摘されるが、現場ではどのように使われているのか。行政が生成AIを使う際の理念を自治体で初めてまとめ、今年6月から活用を進めている鳥取県を取材すると、利点と課題が見えてきた。(鳥取支局 山内浩平)
「アイデアとりまとめの時間は3分の1に」
「あなたはセミナーの主催者です。経営者や管理職が対象です。どのような宣伝文句を使いますか」
県産業人材課の中尾誠治課長補佐がパソコンで生成AIに入力すると、すぐに「自分自身をアップデート」「新たな時代のリーダー」など10個の文句が示された。
別のイベントでも、参加者から質問を受け付ける際の想定問答の作成に、生成AIを活用したという。
こうした「ブレスト(ブレーンストーミング=アイデア出し)」に、生成AIが日常的に使われるようになっている。中尾氏は「アイデアをまとめる時間が3分の1ほどに短縮され、別の業務に充てる時間ができた」とその効果を語る。
生成AI活用も人間主導の原則
「生成AI元年」と言われた2023年。生成AIを業務に使う自治体が徐々に増える中、鳥取県は同年4月、使用禁止の方針を打ち出した。重要な意思決定で生成AIに依存すると、民主主義の根幹がゆらぐとの問題意識があったからだ。
一方、人口減少が進む中、行政サービスを維持するためには活用の必要があるとし、倫理面の問題を検討する有識者会議(座長=山本龍彦・慶応大教授)を設置。その結果、今年4月にまとまったのが全国初の「自治体デジタル倫理原則」だ。
「人間主導」など10項目の原則を掲げ、その理念に基づいて実際に生成AIを使う際の注意点などをまとめた指針を策定。6月から運用する。
指針では、リスクに応じて業務を〈1〉禁止業務〈2〉要注意業務〈3〉要配慮業務〈4〉積極活用業務――の四つに分類。最終判断で生成AIを使用することを原則禁止とし、業務には県が独自開発した「県庁生成AIシステム」を使うようにしている。
システムは米マイクロソフトの生成AIを基盤にしているが、入力内容が学習されることはない。使用する際はデジタル改革課への申請が必要で、これまで約150人が申請し、1500回以上活用されている。
生成AIには、間違った情報を事実のように答える「ハルシネーション(幻覚)」と呼ばれる特性がある。
そのため、職員は出力結果に間違いがないか注意し、同課も定期的に記録を確認している。これまで、イベントのクイズの作成に使った際、鳥取の郷土料理に九州のものが示されたことがあったが、大きな問題は確認されていないという。
AIが出した情報の利用判断も課題
一方、課題も出ている。
これまで主に活用されたのは「積極活用業務」にあたる「アイデア出し」「文章の校正」などで、同課によると、注意や配慮が必要な「要配慮業務」「要注意業務」の活用例は把握していない。同課の杉岡賢治係長は「今は指針を周知しているところで、今後活用の幅を広げたい」とする。
また、庁内では、職員がAIに頼ることで、文章作成などの基礎能力を養ったり、経験を積んだりする機会を失う恐れがあるとの懸念も出ている。AIが出した情報をどう使うかを判断する能力の育成も課題で、県では今後、職員の研修を充実させていく考えだ。
下田耕作デジタル局長は「効果とリスクの両面を理解した上で活用し、新しい行政サービスを生み出したい」と話している。
生成AIの導入は全国の自治体の約1割
総務省が2023年末に全国1788自治体を対象に行った調査によると、約1割にあたる194自治体が業務に生成AIを導入していた。都道府県ではほぼ半数にのぼった。
一方、AIを使う際のルールを指針で策定している自治体は、全体の2割にあたる359にとどまる。導入済みの自治体194のうちでも、156しか策定していなかった。
鳥取県の有識者会議の座長を務めた山本龍彦・慶応大教授は「地方自治の根幹を揺るがさないため、導入する際には鳥取県のように理念や目的を明らかにする必要がある。AIの出力結果をチェックする体制整備も必要で、行政にどのようにAIを活用しているのかを住民に説明するなど透明性を確保することも求められる」と指摘している。
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