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挑戦と決断、再び世界の舞台へ…デフリンピック東京大会・ハンドボール日本代表目指す船越弘幸さん

読売新聞 / 2025年1月15日 15時0分

練習を共にするボンチ・フェローズの徳永さん(前列左)と船越さん(後列右から2人目)ら

 大阪市役所に勤務する船越弘幸さん(47)。平日の日中は公務員として働き、夜間や週末にはハンドボールで世界を目指す練習に励んでいる。当面の目標は、11月に開かれる聴覚障害者のスポーツの世界大会・デフリンピック東京大会での、日本代表入りだ。

小学校でサッカーを始める

 「1歳のころにおたふく風邪になり、失聴しました」

 船越さんは重度の聴覚障害者だ。幼少のころから母親の「将来社会に出ても普通にコミュニケーションをとれるように」という方針の下、厳しい発音訓練を受けてきた。小5以降は聴者に交じって学校生活を送ってきたこともあり、周囲の理解や協力があれば、意思疎通ができるようになってきた。

 聴者と交じった小学校生活の中で出会ったのが、サッカーだった。高校入学の年にJリーグが開幕し、向上心は高まっていった。そして高校2年生の時に、「サッカー王国ブラジルでプロになりたい」との思いを胸に退学し、単身、ブラジルへ渡った。大胆な挑戦に、家族は「せめて大学を出てから」と反対したが、「退学することは親にも相談せずに決めた」という。

ブラジルで武者修行

 ブラジルでは各地のクラブチームを転々とし、サンパウロ州の2部リーグのプロチーム・A.D.グアルーリョスで、公式戦に出場も果たした。本格的にプロとして活動するために、留学ビザから商業ビザに切り替える必要があったが、代理人がいない船越さんの契約は難航し、最終的に契約が成立せず、20歳になる手前で日本に帰国した。

 デフサッカーでは、日本代表として2回デフリンピックに出場するなど活躍をみせた。さらにデフフットサル日本代表チームを結成し、存在感を示した。デフリンピックの公式種目となった24年のトルコ冬季大会は、ケガなどで出場が見込めない状況になり、大会直前の23年に引退した。

46歳でハンドボール

 24年に入り、引退後の生活を送る中で、25年のデフリンピック東京大会の選手募集のトライアウトがあることを知った。競技は、空手、ライフル、ハンドボールだった。球技であることや、フットサルとコートの大きさがほぼ同じであること、ケガが完治しかけていたこともあり、7月、「ハンドボール」の選手への応募を決断した。その結果、持久力などが評価されて合格、最年長選手候補となった。代表入りを目指して8月、ハンドボール生活をスタートさせた。

 選手候補は約30人。1か月に1回、東京での代表合宿が行われる。体の使い方もルールもサッカーとは異なり、ついていけない。代表を目指すための厳しい練習で、指導者から怒号が飛ぶこともあった。求められる高いレベルの技術を前に、「難しいからやめよう」という考えも頭をよぎったが、「ここで逃げるわけにはいかない」と踏みとどまり、合宿後に地元大阪に戻り、自分の力を高め、練習ができる社会人チームを探した。

徳永監督との出会い

「初心者がいきなり社会人チームで練習してもケガをする」との理由から、中学生女子チーム「大阪ジュニアクラブ」を紹介され、練習生として参加することになった。しかし「更に練習したい」との気持ちが高まり、ハンドボール関係者から大阪市の社会人ハンドボールチーム「BONCHI FELLOWS(ボンチ・フェローズ)」の監督兼選手の徳永英さん(38)を紹介された。

 ボンチ・フェローズは、経験者が集まる上級者の集団だ。初心者の船越さんが、参加希望を伝えてきた時、徳永監督は「挑戦する姿勢が印象的で、早速試合に出場してもらおうと思った」という。

 24年10月以降、週末の定例の練習に参加するようになった船越さんは、平日も、勤務後に、走り込みや筋トレなどで自分を追い込み、ストイックなトレーニングで、レベル向上に余念がない。紅白戦や練習試合、公式戦等は必ず動画を撮って何度も見返して検証している。その中で分からないことがあれば、その動画部分を徳永さんにSNSで送る。「ここのプレーはどうしたらよいのか」という質問が船越さんから寄せられ、徳永さんがそれに答える。徳永さんが9歳年下だが、謙虚に学ぼうとする船越さんの姿勢に応え、全面的に支援をしている。船越さんが徳永さんを「師匠」とあおぐ“師弟関係”だ。

若手の見本に

 船越さんは「次の合宿までに少しでも上達した姿で、デフチームに貢献したい」と話す。若い選手候補たちの見本になろうと、自らの練習やトレーニングに励む姿をSNSでも発信しているという。選手選考は7月。徳永さんは「選ばれるように支援していきたい。競技するカテゴリーは異なるが、多くの人にハンドボールを通じて、勇気を与えてくれるようになってほしい」と熱い視線を送る。

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