キャリアを決めるのは自分か?会社か? いまこそ必要「キャリア自律」...5年後、10年後なりたい自分を想像して(1)/第一生命経済研究所・福澤涼子さん
J-CASTニュース / 2024年12月23日 18時49分
キャリア自律を目指して(写真はイメージ)
働く人のキャリアを決めるのは、自分か、会社か。働く人自らがキャリア形成に主体的に取り組む「キャリア自律」の考え方が広がっている。
しかし、聞こえはいいが、「結局、自己責任でやれ!」ということにならないか。自分の将来を真剣に考えている人は少ないなか、どうすればいいのか。
「キャリアを決めるのは自分か、会社か~キャリアプランをもつ人の少なさから考えるキャリア自律支援」(2024年12月11日)というリポートの中で、企業の支援を訴えた第一生命経済研究所の福澤涼子さんに話を聞いた。
自分の将来のキャリア、「特に考えていない人」7割
福澤涼子さんはリポートの中で、「キャリア自律」の考え方が重要視される背景には、雇用や職務の安定性の揺らぎがあると指摘している。
背景として、企業が存続していくには、常にビジネスモデルを変革し続ける必要があり、求められる職務やスキルも頻繁に変容せざるをえず、企業が労働者に画一的なキャリア像を提示することが難しくなった。
だからこそ、個人が自らのキャリアを管理し、自己責任で必要なスキルや専門性を自主的に開発するキャリア自律が求められる。また、出産や子育てなどライフステージに応じて働き方を変える人が増えているため、キャリア自律は誰もがその人らしく働くために必要な考え方となっている。
【図表1】は、正社員に自分自身のこれからの職業生活設計をどう考えているかを聞いた厚生労働省の調査結果(2023年)だ。
キャリアプランを「会社で提示してほしい」と考える人は2割にとどまる一方、「自分で考えていきたい」と答えた人は7割に上る。キャリア自律に前向きであることがうかがえる。
しかし、実際はキャリアの将来像が明確になっていない人が多い。【図表2】は、正社員に将来希望する働き方を聞いた厚生労働省の調査だ。
「会社幹部、管理職」「専門職の仕事」といった具体的な希望をもつ人は半数にとどまり、「なりゆきにまかせたい」と「わからない」が半数にのぼった。他の調査(日本生産性本部など)でも、7割以上が「特に考えていない」と回答している。
キャリアプランを描けない人が多い理由の1つに、人事異動が会社主導で行われていることがあげられる。しかし現在、異動に従業員の意見・希望をできるだけ反映させる制度が広がっている。従業員が自ら応募する異動制度(社内公募制/社内FA制度)や、専門家によるキャリアカウンセリングの導入などがそれだ。
福澤涼子さんは、こう訴えている。
「キャリア自律は、働く人の主体性を重んじる考え方だが、誰もが能動的に取り組めるわけではない。特に働きながら育児や介護などに従事する人にとっては、理想のキャリアと家庭との間で葛藤が生じやすく、目標設定が難しい。今後は、一人ひとりがその人らしいキャリア目標を描き、納得感をもって能力開発していけるような企業の支援が求められる」
「企業の寿命」より、自分の「働く寿命」のほうが長い
J‐CASTニュースBiz編集部は、福澤涼子さんから話を聞いた。
――働く人のキャリアを決めるのは本人か、会社かという問いかけについては、ズバリ、どちらだと考えていますか。
福澤涼子さん 二律背反するものではないと思いますが、どちらかという本人である世の中になってほしいと思っています。
いま働く人は多様化しています。たとえば、大手企業であればいろいろな勤務地に転勤し、それで少しずつキャリアアップしていくような流れがあります。しかしこれは男性中心のキャリアアップで、小さい子どもを育てている女性はそういうケースで簡単に「はい、行きます」とは言いにくいです。
私は2回転職をして、前職でワーキングマザーのキャリアアドバイザーをしてしました。ママたちは子どもの学校のこともあるし、転勤することは難しいことも多いものです。もっとキャリアアップして稼ぎたいと思っても、子育て中だからとキャリア展望の持ちにくい補助的な業務を任されることもあり、それが「マミートラック」です。
一方で、仕事をセーブして子育てに重点を置きたいと考えるワーキングマザーもいて、どちらが正解とも言えないと思います。そのため、本人の希望がより反映される人事だと良いのにと感じてきました。
――それは、もちろん男性も同じですね。
福澤涼子さん より個人が決めていく時代になっていくと思います。かつては、日本の企業は長期の雇用を保障する代わりに、本人のキャリアについては企業が主導権を持ち人事管理をしてきました。
いろいろなポジションを順番に経験する人事異動で、年功序列で給与があがり偉くなっていくキャリア形成でした。ですが、今では長期的な雇用が保障しにくくなっています。
それに、ビジネス変化のスピードが早くなり、事業が生まれて撤退するまでのサイクルも早くなりました。事業が急になくなることが増えると、長期的な計画をもとにキャリア形成を支援することが難しくなっています。従来の画一的なキャリア形成支援では不十分なのです。
――つまり、会社任せではなく、自分でキャリア形成を考えていかないとダメだということですね。
福澤涼子さん そのとおりです。本人の主体性が大事になるのです。それに、私たちが働く期間が延びているなかで、「企業の寿命」より自分の「働く寿命」のほうが長いことだってあるわけでしょう。
だからこそ、就職しているから安心ではなく、いつでも転職できるように自分の市場価値を高めていく必要があります。「エンプロイアビリティ」(雇われる力)が重要になると言われます。企業でのキャリア形成支援では、必ずしも他社でもやっていけるスキルを身に着けさせてくれるわけではありません。
自分自身で労働市場を意識しながら、スキルを身に着けておく必要があり、そのためにも自分で自分のキャリアを形成していくという姿勢や行動が求められるのです。
大学生の就活時期にバタバタと進路を決める若者が多いのは日本だけ
――しかし、キャリア自律というと聞こえはいいですが、「結局、自己責任でやれ!」ということでしょう。これまで人事権を握っていた会社が「君たちのキャリアには責任を持つから、異動・転勤はこちらの指示に従え」と言ってきたのに、今さら「自分のキャリアプランは自分で考えろ」と放棄するのは無責任ではないでしょうか。
福澤涼子さん たしかに近年、「キャリア自律」という言葉がメディアにもてはやされて、キラキラしたイメージを発信していますが、実際には自己責任が高まる働き方と捉えるべきだと思います。
ただ、すべて個人が自己責任で努力するだけではなく、会社もフォローすべきではないでしょうか。
――それにしても自分のキャリアプランを描けていない人が多いのは、どういう理由からですか。リポートでは会社主導の人事権を理由にあげていますが、会社の責任ばかりではなく、本人にも心構えや努力といった面の理由はないのでしょうか。
福澤涼子さん 会社以外ですと、教育の問題もあると考えます。日本は学校での学びと将来を接続して考える人が少なく、あまりキャリアについて考える機会が少ないままに、就職活動を迎える傾向にあるといえます。
将来の進路を決めるタイミングが、海外と比較して大学生後期に集中しているのも日本の特徴です。たとえば、経済産業省の「未来人材ビジョン」(2022年5月)のデータによると、日本の学生は卒業後の進路を決める時期が「大学生後期」の割合が66%に集中しています。海外の国々では、中高生の段階で決める人や大学卒業後に決める人も多く、ここまで偏りはありません。
――大学生の時期にだけ集中するのが日本だけというのは意外です。長年、将来をじっくり考えずに、就活生の時期に、あわててバタバタと進路を決めてしまう弊害が出ているわけですね。
福澤涼子さん 学校教育でも昨今ではキャリア教育に力を入れています。たとえば、文部科学省が2020年から導入した「キャリア・パスポート」という仕組みがそれです。
小学校から高校まで自らの学習状況やキャリア形成を見通したり振り返ったりしながら、将来の生き方を考えるための教材です。よりこうした教育が進んでいけば、今後、将来のキャリアについてより若い段階から考える人も増えていきそうです。
「手挙げ」で行きたい部署を、社内サイトで公募する
――それはとてもいい試みですが、企業側の責任はないのでしょうか。
福澤涼子さん 新卒一括採用文化がまだ根強く、「こういう仕事をしたい」というよりも「この会社で働きたい」が先行しがちになっています。最近は「配属ガチャ」などと言われて、配属先を決めた入社も増えていますが、多くの場合はどこに配属されるのかわからないので、具体的な将来像を描きにくいですよね。
また、長期雇用が揺らいでいるとはいえ、職務内容や勤務地などにこだわらなければ、雇用は継続されます。米国のジョブ型の会社などでは、事業が突然なくなったら転職せざるを得なくなりますが、日本は別の事業部に異動になるなどして雇用は継続されることが多いです。
――なるほど。キャリア自律が進まないのは本人に問題があるとしても、背景には教育や就職活動、会社の人事管理などさまざまな環境の影響を受けているわけですね。ところで、最近は働く個人の意思を尊重する異動が広がっていると書いていますが、具体にはどんな動きですか。
福澤涼子さん 大企業などでは、社内公募/社内FA型の人事制度が導入され、手挙げによる異動が増えています。
たとえば、従業員向けの求人サイトのようなものがあって「〇〇事業本部の□□チームで2人募集中。仕事内容は〇〇〇〇。△△の資格などがあり、□□□□の意欲がある人材を求む」といった情報が掲載されて、異動希望者はそのサイトから応募して転職のように選考を受けるのです。
――素晴らしいですね。
福澤涼子さん ところが、せっかく公募型の人事異動を制度としてつくっても応募が入らず活用されないことも多いと聞きます。あるメーカーに勤務の方の場合、もともと海外での仕事に興味があり、そういったポジションの公募があったので応募したそうですが、自分以外に応募している人はほとんどいないと話していました。
外資系の企業では、手挙げ制度が普及しています。みんな虎視眈々と空きそうなポジションを狙って情報収集に余念がありません。その点、日系企業ではまだ自分の意志で異動をするという意識が低く、社員が他のポジションや事業への理解にも消極的で応募に至らないという課題があります。
うまく活用しているところでは、制度をつくるだけではなく、理解を促すために該当ポジションで働く人に実際に話を聞いてみるとか、仕事内容をより詳しく紹介するようなサイトを作るなどの工夫をしたり、中にはAIが社内求人を推薦してくれるという仕組みをつくった企業もあるようです。
もう1つ最近、注目されているのは「社内副業」の広がりです。
<キャリアを決めるのは自分か?会社か? いまこそ必要「キャリア自律」...5年後、10年後なりたい自分を想像して(2)/第一生命経済研究所・福澤涼子さん>に続きます。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)
【プロフィール】
福澤 涼子(ふくざわ・りょうこ)
第一生命経済研究所ライフデザイン研究部副主任研究員、慶応義塾大学SFC研究所上席所員
2011年立命館大学産業社会学部卒、インテリジェンス(現・パーソルキャリア)入社、2020年慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了、同大学SFC研究所入所、2020年リアルミー入社、2022年第一生命経済研究所入社。
研究分野:育児、家族、住まい(特にシェアハウス)、ワーキングマザーの雇用。最近の研究テーマは、シェアハウスでの育児、ママ友・パパ友などの育児ネットワークなど。6歳の娘の母として子育てと仕事に奮闘中。
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