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裁判官「不正は自分のため」、友人「弁護士より収入少なく見返したかったのでは」…インサイダー告発

読売新聞 / 2024年12月24日 7時48分

 金融庁、東京証券取引所という市場の「監視役」に属する職員や社員が、自己や親族の利益を得るために不正取引に及んでいた疑いが強まり、証券取引等監視委員会から23日に告発された。いずれも企業情報が集まる立場を使い、株価上昇が見込める株式公開買い付け(TOB)に狙いを定めていたとされる。「あまりにも職業倫理に欠けている」。投資家らは怒り、再発防止の徹底を求めた。(落合宏美、林麟太郎)

 告発された金融庁出向中の裁判官、佐藤壮一郎容疑者(32)(懲戒免職)は今年4~9月、TOB情報10件を基に対象企業の株を総額1000万円近く買い付けた疑いがもたれている。

 複数の知人によると、佐藤容疑者は慶応大法学部で優秀な成績を収め、飛び級で同大法科大学院に入学。2017年に24歳で司法試験に合格した。高校、大学時代の友人男性は「真面目で優秀。大学時代は検察官を志し、正義感が強い印象があった」と振り返る。

 19年に大阪地裁判事補に任官し、主に民事裁判を担当。C型肝炎やアスベストを巡る国家賠償請求訴訟など著名な裁判に携わり、強盗致死事件など刑事裁判にも関わった。あるベテラン裁判官は「中央省庁に出向した経歴からも、裁判官の仕事には問題はなかったのではないか」と話す。

 関係者によると、佐藤容疑者は出向前から有名企業を中心に株取引を行っていたが、出向後、職務で知った未公表のTOB情報をもとに売買し、徐々に取引の金額を増やすように。法科大学院でともに学んだ友人の弁護士は「負けず嫌いだった。裁判官は弁護士より収入が少なく、見返したいとの思いがあったのでは……」との見方を語った。

 弁護士は、大手事務所所属であれば佐藤容疑者の年代でも年収1000万円を超えるケースがある。一方、裁判官は法律で報酬が規定され、佐藤容疑者のような任官5年程度は年収約700万円とされる。佐藤容疑者は、監視委や東京地検特捜部の任意の事情聴取に「自分の利益を得るためにインサイダー取引を行った」と不正を認めたという。

 裁判官が職務に関する不祥事で刑事責任を問われるのは極めて異例。発覚しやすい本人名義での取引に及んだことに、裁判所のある幹部は「前代未聞で、裁判官一般の信頼をも失墜させかねない」と嘆いた。

 出向中の佐藤容疑者は裁判官の身分から外れており、23日、金融庁から懲戒免職処分を受けた。最高裁の徳岡治・人事局長は同日、「誠に遺憾。このようなことは決してあってはならず、一層の綱紀の保持を図りたい」とのコメントを出した。

東証社員 父にTOB情報 

 一方、今年1~3月、父親に上場企業の未公表情報を繰り返し伝達したとして告発された東証社員・細道慶斗容疑者(26)(23日に懲戒解雇)は新潟県出身で、東北大を卒業後、東証で勤務するようになった。

 所属先の上場部開示業務室は上場企業の適時開示などを担当し、TOBなどの未公表情報が集まる。細道容疑者はTOB対象企業名を知ると、故郷で自動車整備会社を営む父の正人容疑者(58)に伝え、正人容疑者が自身の名義で株を買い付ける行為を繰り返していた。1銘柄あたりの買い付け額は約1020万~約240万円に上ったという。

 知人によると、正人容疑者は「息子が証券取引所に就職し、良いところに決まった」と自慢げに話していたという。

 告発を受け、東証を傘下に持つ日本取引所グループ(JPX)の山道裕己やまじひろみ・最高経営責任者は23日、「投資家、上場会社をはじめ皆様にご迷惑をおかけしていることを深くおわび申し上げる」と謝罪した。

 加藤金融相は23日夕、記者団に「金融市場そのものの信用を揺るがすもので、大変遺憾だ」と述べた。

投資家 怒りの声

 政府が「資産運用立国」の旗の下で、国民に投資を促す中、市場の公正を守り、高い職業倫理が求められる金融庁職員や東証社員による不祥事に、個人投資家らは不信を募らせている。

 2年前に株取引を始めた横浜市の会社員男性(30)は、「立場を利用して得た未公表情報で利益を得ていたのだとしたら、一般投資家と比べて極めて不公平だ」と批判した。茨城県古河市の団体職員男性(41)は「あまりにもモラルに欠ける。国民の信頼を失墜させる行為で、不信感しかない」と話した。

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