「テレビは終わり」は極論、当たり外れは“神の領域”…トレンディードラマ立役者の言い分
読売新聞 / 2025年1月4日 7時3分
キーパーソンが語る放送100年
ラジオから始まった日本の放送が今年で100年を迎える。テレビは白黒からカラーへと変わり、衛星放送も登場。デジタル化も果たした。この10年は動画配信サービスが躍進し、スマートフォンなどで好きな時に番組が楽しめる時代となった。今後、放送はどうなるのか、キーパーソンたちに聞いた。(文化部 辻本芳孝)
「ビジネスモデルが違う」関西テレビ社長・大多亮
「テレビは終わり」との極論に走るネット派がいて、二項対立をあおっているのではないか。昔からよく言われるが、二項対立は野球とサッカーはどっちが強いかみたいな話だ。勝ったか負けたかでなく共存する、高め合うという発想もある。
海外の配信ドラマは、
内容も、配信ドラマは地上波では扱いにくいテーマや暴力表現、性的表現がある。刺激的で見ていて面白いが、テレビは広告付き無料モデルで、多くの視聴者の目に触れるから公序良俗に反しないかを重視するため、当然差が出る。でもこっちは面白くて、こっちはつまらないというわけではない。規制の中で作る地上波ドラマの良さも絶対にあり、むしろ普遍的で大衆的かもしれない。制作費は全然違っても、例えば、関西テレビの「エルピス」や「春になったら」なども、内容や人に伝わる力が劣るとも思えない。配信ドラマが強くなると、地上波ドラマが駄目になるなんて思ったこともない。
最近は配信でも地上波ドラマが人気で、配信側からローカルドラマを作ってほしいという要望が来るほどだ。むしろ日本人に受ける連続ドラマに字幕をつけて世界に打ち出していく。日本のドラマのレベルはそのくらい高いし、作り手はやる気になる。
カギ握る映像のリアル化
欧米の配信では、プロデューサーや脚本家を兼ねて全体を統治する「ショーランナー」がいて、その下に複数の脚本家で台本を練るライターズルームがある。レベルが高いものができるかもしれないが、シンガー・ソングライターがふらっと書いた曲が大ヒットするようなことも当然ある。どちらがいいという話ではない。
テレビ局の問題は、いいドラマを作ってヒットさせたら、それで終わりだったことだ。その先のビジネスは、海外向けに番組販売をしたり、リメイク権を売ったりするくらいだった。今はヒット作をIP(知的財産)として扱う時代。ゲーム、映画、アニメ、商品化などを考える必要がある。
アニメのミッキーマウスをリアル化したディズニーランドがそうだが、これからは映像のリアル化がカギになるだろう。それこそが、次に向かう一つの道ではないか。以前は、日本人はイマーシブ(没入)型や体験型のテーマパークは、恥ずかしくて行かないと言っていたが、今やもうみんな行って、歌ったり踊ったりしている。最新技術を使えば何でも表現できる。「聖地巡礼」や「推し活」も活発で、観客席に座って見るだけだったエンタメの楽しみ方が変わってきた。この流れは進化して止まらないだろう。それは0から1を生み出す制作力があり、マスに発信してIPを作り出すテレビ局だからできることだ。
視聴率が下がってきたこの10年は、アニメを発端に、自分たちが持ってるコンテンツが世界に通用すると気づいた時代でもある。世界にビジネスが広がる可能性があり、テレビの力を持ってすれば、IPの時代も輝き直せますよ。
おおた・とおる 1958年生まれ、東京都出身。81年、フジテレビ入社。制作畑でトレンディードラマ路線の立役者。24年から現職。
「自分で選ぶのが煩わしい人も」U-NEXT社長・堤天心
リクルートに勤めていた2000年代前半、ブロードバンド時代には、送信できるデータ容量は飛躍的に伸びていくと本で読んだ。それでインターネットのインフラで動画やアニメーションが当たり前のように送れる時代が来ると確信し、ブロードバンドと動画を扱っていたU―NEXT(当時USEN)に転職した。
通信システムは10年単位で世代交代する。写真が手軽に送れるようになった2000年代の3Gから10年以降に4Gの世界が広がった。スマートフォンが登場し、ネットを介してサーバーなどを利用できる「クラウドコンピューティング」も生まれ、動画をモバイルで見られる時代になった。最初はこんな小さい画面で誰が見るんだと言われたが、動画、音楽、電子書籍など色んなアプリが花開いた。
ただ、技術は進んでも動画配信サービスはそれほど進展しなかった。その状況を劇的に変えたのは、11年のHuluの参入だ。海外ドラマや映画をテレビだけでなく、スマホなども含めたマルチデバイスで見られるというのが衝撃的で、権利元の動画配信の権利処理に対する理解が一気に進んだ。その後、15年にネットフリックスとAmazonプライム・ビデオが、国内サービスに参入してきたことで流れが定着した。
日本で動画配信が進まなかったもう一つの理由に、レンタルビデオが先進国で最も発達した国だったという事実がある。それがコロナ禍で店舗に借りに行けなくなり、消費者行動が変わった。さらに、技術の進展でスポーツや音楽のライブ配信を何百万もの人が同時に見られる時代が訪れた。ABEMAでサッカー・ワールドカップの配信が行われたのもその一つだ。
とはいえ、同時視聴の単位が何千万人になると、今の技術ではハードルが高く、まだ放送にかなわない。20年頃から始まった5Gのインフラが全国津々浦々に広がれば、理論上は放送と差がなくなる。とはいえ、視聴者がオンデマンド視聴のみを選ぶことにはならないだろう。番組を自分で選ぶのが煩わしい人もおり、(タイムテーブルに従って視聴する)放送のチャンネルはなくならないはずだ。
AIがショート動画制作、やりがい冷めないか
放送局が担う価値がなくなるとも到底思えない。災害の時にすぐテレビをつけるとか、朝起きたらテレビで話題をチェックするといったニーズはなくならない。報道番組と情報番組は放送局の最大の強みで、その価値は5Gの時代にも変わらない。
動画配信業界の話をすると、ナンバー3位以内に入らないと脱落するという危機感はある。4番手が生き残れるかはグレーゾーンで5番手になると厳しいという感覚だ。
これからは、プロが作ったプレミアムなコンテンツを提供する我々の動画配信の市場と、若者が好むTikTokなど数分のショート動画の市場、放送局の市場の三つが併存し、消費者の時間を奪い合う世界になっていくのではないか。ただ、全体の傾向として、若者が長い作品を見られなくなってきている。ショート動画が生成AI(人工知能)でバンバン作れる時代はやって来るだろう。AIが作った作品を人間がただ消費するというのは、制作へのやりがいが冷めないか気がかりだ。
つつみ・てんしん 1977年生まれ、東京都出身。2006年、USEN入社。10年に同社U―NEXT事業部長。17年から現職。
「淘汰される有料衛星放送」WOWOW・山本均社長
衛星放送を業界として語る時代は終わってしまったのではないか。かつては地上波よりも効率よく全国どこでも見られる衛星放送の優位性があったが、いまや動画配信サービスと戦わざるを得なくなった。有料衛星放送がなくなるとは思わないが、
WOWOWは、NHKの衛星放送用に打ち上げる放送衛星の空きチャンネルを使って、民間初の衛星放送を行うために1984年に設立された。地上波の広告ビジネスとは違い、欧米で始まっていた民間有料放送に日本で初めて取り組むことになった。株主構成は大企業だらけだったが、ベンチャービジネスだ。
地上波との差別化のため、映画はハリウッドの大手と契約して新作が地上波より早く提供できる契約を結び、ノーカット、ノーCMで放送。スポーツではテニスなどを最初から最後まで生中継した。91年に開局すると、翌年には有料放送史上、最速で加入数100万を達成した。
米有料放送局HBOを研究し、「セックス・アンド・ザ・シティ」など独自ドラマの成功を参考に、2003年に独自ドラマ製作プロジェクト「ドラマW」をスタートした。それに続く「連続ドラマW」で「パンドラ」「空飛ぶタイヤ」などが評価され、出演を望む役者や監督が増える好循環ができた。有料放送のジャンルが確立され、18年には加入数が過去最多の290万件にまで増えた。
「プレミアムなエンタメ」で生き残り
ただ、コロナ禍でコンテンツ力が弱くなったのが痛かった。人気だった音楽ライブ、世界中のスポーツが軒並み中止になり、ハリウッドも映画の公開を取りやめたからだ。一方、巣ごもり需要で動画配信サービスが急拡大した。21年から配信サービスの「WOWOWオンデマンド」を始めたが依然、競争は厳しい。
放送中心から、放送と配信の2軸にしたのは、従来のサービスを楽しんでもらえる50代以降の会員を大事にしつつ、配信を新規会員の入り口にするためだ。放送では自由に商品設計ができないが、ネットなら自由に商品も価格も設定でき、従来の商品では入ってくれなかった若い世代がスポーツコンテンツを見るために入会してくれるなど、手応えを感じている。長い将来で見れば、放送から配信にサービスの比率が変わっていくだろう。
いずれにせよ、「プレミアムなエンタメ」という地位を守らないと生き残れない。カギは質の高いオリジナルコンテンツ、WOWOWでしか見られないスポーツや音楽ライブだ。その意味では今年、「ゴールデンカムイ」が映画で大ヒットし、その続編の連続ドラマW版も好評なのがヒントになる。07年以降、映画製作も続けており、培ってきた映画とドラマの努力が結びついた記念碑的な成果と言える。おかげで会員数の増加に貢献している。
やまもと・ひとし 1964年生まれ、埼玉県出身。90年、WOWOW入社。2003年に「ドラマW」を企画。24年から現職。
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