「被爆者なき時代」へ、記憶語り継ぐのはAI…事前撮影の映像から質問に沿った回答選ぶ
読売新聞 / 2024年12月24日 14時30分
被爆者が高齢化する中、AI(人工知能)を「語り部」活動に活用する動きが進んでいる。事前に撮影した映像からAIが質問に沿った回答を選び、被爆者がその場にいなくても質疑応答に対応できるようにする。「被爆者なき時代」は近づいており、自治体などは「AI語り部」で次の世代への記憶の継承につなげたい考えだ。(南佳子)
「救助に行った先で、建物の下敷きになっている人を助けられなかった時、どのような無力感がありましたか」
「木造校舎が積み木細工のように崩れ、そこで亡くなっている遺体をみました。名札の名前を書き取るのが精いっぱいで、無力感どころか人間らしい感情を失っていたと思います」
横浜市緑区の集会所に特設されたスタジオ。カメラを前に、長崎で被爆した西岡洋さん(93)(横浜市)が被爆時の状況やその後の救援活動などの質問に、身ぶりを交えながら答えていた。質問は約170問。撮影は今秋に計2日間行われた。
神奈川県の継承推進事業の一環で収録された。県はAIを使って証言を次世代に残すため、映像アプリ開発会社「シルバコンパス」(浜松市)のシステムを活用することにした。
利用者から質問を受けると、AIが音声を認識し、収録された中から質問にあった回答にふさわしい映像を選び出してモニターに映し出す仕組みだ。被爆者がその場にいなくても、疑似会話を体験できる。生成AIのように映像を作り出すことはないという。
神奈川県は被爆80年を迎える来年度に公立校での平和学習に利用してもらう計画だ。小中学校で被爆体験の証言活動を長年続けている西岡さんは「新しい技術で、継承の機会が増えてくれればありがたい。核兵器廃絶という大きな目標につなげるために活用してほしい」と語る。
〈歴史の証人である被爆者がいなくなる時がくる〉。日本原水爆被害者団体協議会(被団協)へのノーベル平和賞授賞理由でもそう言及された。県生活援護課の担当者は「近い将来、被爆者を平和学習に派遣できなくなる。証言の録画より対話形式の方が子どもたちの記憶に残り、心に響きやすい」と期待する。
広島市も今年度、AIによる疑似対話ができる装置の製作を始めた。被爆者5人の被爆体験や、想定される質問への答えを順次撮影していく。5人には英語で被爆証言を続ける女性もおり、外国人も装置を活用できるようにする。被爆80年の来年8月をめどに、広島平和記念資料館などに設置する予定だ。
東京大の渡辺英徳教授(情報デザイン)は「被爆者から直接話を聞けなくなるのは避けがたい状況だ。AIを活用するなど時代に合わせて伝わりやすい技術を取り入れ、記憶を受け継いでいくことが重要だ」としている。
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