クシュタールのセブン買収提案、反トラスト法抵触の懸念…創業家の対抗策も資金集め難航
読売新聞 / 2024年12月26日 8時42分
セブン&アイ・ホールディングスに対するカナダのコンビニ大手アリマンタシォン・クシュタールの買収提案は、年明け以降に結論が持ち越される見通しだ。米国の店舗数が1、2位の両社が統合すれば反トラスト法(独占禁止法)に抵触する可能性が高いが、クシュタールは具体策を示していない。一方、セブン創業家が主導する買収対抗策も総額9兆円に上る資金集めが難航している。(金井智彦)
店舗近接
米テキサス州ダラスの幹線道路。ガソリンスタンドを併設したセブン―イレブンの向かいに、クシュタール傘下のスタンド併設コンビニ、サークルKがあった。
来店客のマルヤム・ダラモラさん(42)は「二つの店に大きな違いはないけど、アプリでガソリンが安くなるから、給油ならセブンを使っている」と話す。
米国首位のセブンは約1万3000店、2位のクシュタールはサークルKなど約6000店を持つ。セブン米国法人が本社を構えるダラス近郊は店舗が集中し、サークルKと競合する店舗も少なくない。
クシュタールの買収に対し、独禁当局の米連邦取引委員会(FTC)は価格競争を阻害すると判断した地域の店舗売却を命じることができる。店舗間の距離について明確な基準は示されていないが、過去のコンビニ買収では2~3マイル(3・2キロ~4・8キロ)以内の重複店舗がFTCの調査や売却命令の対象になったケースが目立つ。
ダラス近郊のサークルK約40店舗のうち、セブンの2マイル以内に立地する店舗は半数以上にのぼる。全米では3~4割程度が調査対象となる可能性がある。
車社会
厳しい規制は車社会の米国を映す。コンビニの約8割はガソリンスタンド併設型で、消費者には「給油で立ち寄る場所」という意識が強い。特定地域でコンビニの寡占化が進めば、ガソリンの価格競争が妨げられるとの懸念がある。
セブンはクシュタールの買収提案を受け入れていないが、FTCはすでに調査の意向を示しており、両社に関係書類の保存を命じている。交渉が始まる前にFTCがこうした措置に乗り出すのは極めて異例だ。
米国の規制に詳しいベーカー&マッケンジー法律事務所の井上朗弁護士は「今回のケースは社会的影響が大きく、当局の強い懸念がうかがえる。地域ごとに店舗立地や価格を細かく調査し、分析に時間をかけるだろう」と指摘する。
買収70件
クシュタールは2003年にサークルKを買収し、世界的なコンビニチェーンとなった。これまで70件以上の買収を行ってきたM&A(合併・買収)巧者だ。同社首脳は「FTCとの交渉経験は豊富にある。(解決する)プランはある」と強気の姿勢を見せる。
セブンはクシュタールに独禁法への対応を質問しているが「納得できる回答は返ってきていない」(セブン幹部)という。
一方、セブン創業家は買収対抗策として、経営陣による自社株買収(MBO)を提案している。巨額の買収資金はメガバンクなどからの調達を見込むが、金融関係者からは「あれだけのサイズになると、なかなか固まらない。MBOは時間がかかりそうだ」と話す。
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