1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 社会

ピアノ・野球・学習…能登被災地で学びの場が消滅、子供たちに「体験格差」

読売新聞 / 2024年12月26日 5時0分

[能登地震1年]<4>

 「ピアノの先生が引っ越してしまい、教室が閉まった。小学校入学前から習っていたので、もっと続けたかった」。石川県輪島市の中学1年の女子生徒(12)は肩を落とす。能登半島地震で自宅のピアノは壊れ、しばらく弾いていない。同級生が学校で上手に演奏しているのを見て、うらやましく思うこともあったという。

 奥能登地域では地震後、習い事教室やスポーツチームが消え、子どもの「体験機会」が失われている。

 輪島市内に四つあった少年野球チームは、グラウンドに仮設住宅が建つなどして活動場所が減り、一つに統合された。チームを去った子もいる。小学6年の男子児童(11)は「僕は野球を続けられて良かったけど、練習場所のグラウンドは一部しか使えなかった。広いところで思いきり打ちたかった」と残念がる。

 公益社団法人「チャンス・フォー・チルドレン」(東京)が11月に公表した、被災した保護者252人へのアンケートでは、96・8%が「地震後に教育機会が減った」と回答した。「習字教室が全壊した」「水泳クラブのプールが壊れて使えなくなった」などの窮状が寄せられた。

 子どもに関する困りごとは「教育資金」が69・8%で最も多く、壊れた家の解体費がかさむことや、収入減を訴える声が目立った。

 家庭の困窮で、習い事などを経験できない「体験格差」が近年、問題視されているが、同法人の今井悠介代表理事(38)は「能登では困窮に加え、体験の場自体が消滅したことによる体験格差が起きている」と指摘。子ども時代の体験には、人生の選択肢を広げる意義があるとして、「困窮家庭には手厚い公的支援が必要だ。活動場所を失った事業者には公共施設を提供してほしい」と訴える。

        ■

 被災自治体はこれまで、公教育の復興に注力してきた。他校の教室を「間借り」して授業を続けた小中学校は、4月時点で12校あったが、仮設校舎の建設が進み、12月時点で4校に減った。

 被災した6校を1校に集約した輪島市の「合同小学校」では、秋に運動会が開かれ、今月14日には6年生による「復興音楽隊」の発表会が行われた。

 子どもたちの前向きな姿を見た山岸多鶴子校長(60)は、「大人も元気をもらった」と振り返る。一方、地震で地域の体験機会が減ったことについて、「校外の活動は、子どものもう一つの居場所。やりたいことを思いきりやれる環境が戻ってほしい」と語る。

        ■

 体験機会や地域の学び場の喪失は、人口流出にもつながる。小学生の子を持つ輪島市内の男性(43)は「英語教室や塾など、地元の教育環境は乏しい。将来を思うと転居を考えてしまう」と打ち明ける。

 奥能登4市町(輪島市、珠洲市、能登町、穴水町)の児童生徒数は、昨年度は2590人だったが、地震後の今年度は1910人に急減した。10年前の半数弱で、今後も減少が見込まれている。

 お茶の水女子大学の浜野隆教授(教育社会学)は「保護者の不安を払拭ふっしょくしなければ人口流出は止まらない。自治体は公教育の将来像を示すとともに、地域全体の教育環境を整える必要がある。体験機会の復興は、行政が積極的に関与できるかどうかがカギだ」と話す。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください