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楳図かずおさんの骨拾った記者が明かす最後の「グワシ!」の裏側…弱った体で帰郷、中学生へエール

読売新聞 / 2024年12月31日 11時31分

楳図さんが幼少期を過ごした奈良県曽爾村にある「お亀池」。へび女伝説が似つかわしくないほど美しい風景だった(2023年12月14日)

[追悼抄]漫画家・芸術家・楳図かずおさん…10月28日胃がんで死去

 11月某日、東京都内の斎場で、楳図かずおさんの骨を拾った。
 あなたよ
 なぜ骨をきらうのか
 骨は美しい!!
 という「おろち」のエピグラフ(第2話「骨」)が頭に浮かんだ。その通り、目の前の骨は白く美しかった。エピグラフはこう続く。
 いやらしいのは
 その骨の
 上についている
 肉ではないか!!
 やはりこの人は、人間の本質を深く照らす、並々ならぬ洞察力を持っていた――。そう思った。

まことちゃんで街おこし

 昨年12月、楳図さんが久しぶりに故郷の奈良県五條市を訪れると聞き、同行取材した。同市立五條東中の3年生が、ふるさと学習で「まことちゃんで街おこし」というアイデアを考え、楳図さんに手紙を送った。楳図さんはキャラクターの使用を快諾、生徒の質問書に丁寧に答えただけでなく、「発表を聞きたい」と強く望んだのだ。

 12月15日の来校は、約200人の生徒にとってサプライズだった。おなじみのボーダーシャツで漫画家が姿を見せると、体育館にどよめきと拍手がおこった。

 「五條の街おこしのことは僕も気になっていました」と、楳図さんは壇上から語りかけた。「久しぶりに歩いて、やっぱり素晴らしい街だと思いました。僕は昔、ここを歩きながらいろんな作品を考えました。『猫目小僧』の舞台は五條市なんです」

 「街おこしのアイデアは僕にもすぐ思いつかないけれど、面白いことって、やっぱりとんでもないことなんです。とんでもないことは、周囲に反対されることもあるけど、普通のことをやっても誰も振り向いてくれないのです」

 最後は、発表した生徒たちに囲まれて「グワシ!」。87歳とは思えぬエネルギーを見せた。が、東京から同行したマネジャーの上野勇介さん(46)(現・一般財団法人UMEZZ代表理事)だけは、本当のことを知っていた。

 「春先から患った持病に加え、夏の暑さで体調を崩し、実はかなり弱っていた。でも、どうしてもあの時、五條に行きたかったんだと思う。先生はクルマが苦手で、歩きと電車でしか移動できない。ホームでは足を引きずっていた。はいずるようにふるさとに帰ったんです。そんな弱い所を他人には決して見せない人でした」

 この「グワシ!」が、公の場で見せた最後の雄姿となった。

熱いふるさと愛 創作の原点

 同行取材の合間に、奈良県曽爾そに村と野迫川のせがわ村をレンタカーで巡った。曽爾村は幼少時の漫画家に初めて恐怖の味を教えた「お亀池のへび女伝説」の地で、野迫川村は母・市恵いちえさんの故郷だ。楳図ホラーの原風景を見てみたかった。

 お亀池に着き、意外の感に打たれた。明るく開けた高原にあり、ススキ野がに輝く美しい場所だった。あの怖い「へび女の沼」は想像力の産物だったようだ。一方、野迫川村は、文字通り深山幽谷の中。こちらの方が、よほどへび女の故郷らしい雰囲気だった。

 村役場で、「ここは楳図さんのお母様の故郷だそうですが」と聞いてみた。「ああ、知ってます」と若い職員は答え、地図を広げて「このあたりのご出身だそうです」と教えてくれた。しかし、役場からさらにクルマで1時間以上かかる。諦めざるを得なかった。

 そんな「聖地巡礼」を、五條東中訪問の前夜、ホテルで楳図さんに話すと、愉快そうに言った。「僕は山の中っ子で、小学生の時に五條市に引っ越して、生まれて初めて広いところに出たんです」

 「僕の漫画や芸術で、吉祥寺と五條市、曽爾村、野迫川村も全部つなげられるといいんだけどなあ」――。都会的風貌ふうぼうで知られる漫画家のうちには、熱いふるさと愛がみなぎっていた。

楳図ワールド、最後まで構想

 五條市から東京・吉祥寺の自宅に戻った数日後、脳梗塞こうそくで倒れ入院。年明けに退院すると、猛然と新しい連作絵画101点の制作に取りかかる。うち1点が9月に金沢市の金沢21世紀美術館で展示され、「JAVA 洞窟の女王」というタイトルも明かされた。しかし、その頃は胃がんで再入院しており、ついに完成を見なかった。

 「JAVA」とは別の、もう一つの新作の構想を、亡くなる3週間前まで聞いた。もう枕から頭を上げられない状態だったが、ハッとするほど斬新で、文明批評的で、グロテスクで、コミカルで、つまり楳図ワールドそのものだった。

 聞く方も夢中になって「こうした方が面白いのでは」とつい口を挟んでしまった。楳図さんは気を悪くするどころか、ニッコリと「あ、それもいいねえ」。その目の輝きは子どものようだった。(東京本社文化部 石田汗太)

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