箱根駅伝のサッポロビールCMはなぜ「エモい」のか、「売上が伸びるわけではない」けれど…応援し続ける理由
読売新聞 / 2024年12月27日 17時0分
サッポロビールは、箱根駅伝を応援しています――。年始の風物詩となった東京箱根間往復大学駅伝競走(箱根駅伝)で、テレビから流れるフレーズだ。サッポロビール(東京)が箱根駅伝に協賛を始めて第101回大会で39回目。今回の箱根駅伝CMの狙いを聞くと、ビール会社ならではの苦労も見えてきた。(デジタル編集部 古和康行)
ネットでも話題になるテレビCM
箱根駅伝の時期、サッポロビールのテレビCMが話題に上る。インターネットのトレンド検索サービス「グーグルトレンド」を見ると、「箱根駅伝」という言葉と一緒によく検索されている。
サッポロビールの箱根駅伝のテレビCMはエモい。ランナーの箱根路にかける思いを描き、沿道で声援を送る人たちの情熱を映し、関わる全ての人にエールを送る。第100回大会のCMでは、過去大会に出場して名場面を作り出したOBのランナーに出演してもらい、次世代にたすきをつなぐような演出を見せた。駅伝経験者のみならずとも、胸が熱くなった人も少なくないだろう。
「多くの皆さんがテレビを通じて箱根駅伝を見る。テレビCMは非常に注力しているポイントです」
12月25日、東京・恵比寿のサッポロビール本社。CM作りについて、マーケティング本部・メディア統括グループリーダーの小池英樹さんはそう熱を込めつつ、こんなことを言った。「非常に難しいです」
その難しさとは何か。箱根駅伝で流れるサッポロビールのテレビCMには、商品や自社製品を飲むシーンが一切映らない。というよりも「映せない」のだ。
サッポロビールが所属する「ビール酒造組合」など9団体で構成する「飲酒に関する連絡協議会」は自主基準を定めている。この基準では、午前5時~午後6時までは「企業広告」(企業イメージ向上の目的)や「マナー広告」を除いて、酒類のテレビ広告は禁止されている。
翻って、箱根駅伝はどうか。レースが始まるのは往路も復路も午前8時にスタート。ゴールは、午後1時過ぎだ。「禁止時間」のど真ん中にレースが行われるため、箱根駅伝で流れるサッポロビールのCMは「企業広告」となり、商品のアピールポイントや発売時期などをテレビCMに盛り込むことが難しいのだ。
なぜスポーツを応援するのか
サッポロビールが箱根駅伝の協賛を始めたのは1987年の第63回大会から。小池さんは「仲間のためにタスキをつなぐ、選手のひたむきな姿がサッポロビールのモノづくりの姿勢と通ずるところがある。彼らを応援したいと協賛を始めた時から今までずっと引き継がれている」と語る。
CMのコンセプトは「次世代を応援する」ということ。箱根路を駆ける選手の力走やそれに声援を送る沿道の人たち。そういった景色を生かしながら、CMは次世代へのメッセージを伝える。
第101回大会のCMも若者から人気を集めるラッパー、KID FRESINOを起用し、「努力を積み重ね、時に葛藤し、時に挫折を味わいながらも、それでも壁を乗り越えられる」「若者たちの箱根駅伝までの道のりを感じることができる内容」にした。
小池さんも「自主基準があるので、ビールの液体やブランドを出せない。それでも、サッポロビールが箱根駅伝を応援するという姿勢は示していかなければならない。1大会のCMでそれをアピールするのは無理」と話す。だが、「長い年月をかけて箱根駅伝の応援を続けてきたことが、『箱根駅伝といえばサッポロビール』というイメージをもっていただくことにつながった」と語った。
では、なぜサッポロビールが長年にわたって箱根駅伝を応援し続けるのか。小池さんは「『スポーツ協賛』全般にいえることだが、スポンサーになったからといって爆発的に売り上げが伸びるわけではない」ときっぱりと言う。「見ている人の心が動く瞬間がスポーツにはたくさんある。多くの人の心が動く瞬間に、『サッポロビール』の名前に触れることで、より、当社のことを好きになってもらえるのではないかと考えているからです」と語った。
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