「戦争を招いた」ヒズボラへの不満、イスラエルの合意違反訴え…停戦1か月も一触即発の緊張状態
読売新聞 / 2024年12月26日 22時28分
【ベイルート=田尾茂樹】イスラエルとイスラム教シーア派組織ヒズボラが停戦してから27日で1か月となる。戦場となったレバノンでは、「戦争を招いた」としてヒズボラへの不満が広がる。ヒズボラはイスラエルへの抵抗を主張する一方、同国の停戦合意違反を指摘する訴えも相次ぎ、一触即発の緊張状態が続いている。
街頭に巨大なツリーが飾られ、クリスマスムードに包まれた首都ベイルートのキリスト教地区。飲食店を営むルラ・シャラウィトさん(42)は「停戦まで連日爆音が響き、恐ろしかった」と振り返る。街にあふれた避難民の多くは帰還したが、「こんな状況に陥れた責任はヒズボラにある」と語気を強めた。
レバノンでは様々な宗教・宗派が混在し、ヒズボラへの不満が強まる。停戦前はベイルート中心部にもイスラエルの攻撃が及んだ。ヒズボラ幹部を狙った空爆跡では、イスラム教スンニ派で工場を営む男性(60)が「ヒズボラが武器を置けば、戦闘は起きない」と訴えた。
イスラエルはヒズボラが最大4000人の戦闘員と80%超のミサイル・ロケット弾を失ったとみている。シリアのアサド政権崩壊で後ろ盾のイランからの主要な武器補給路も断たれ、速やかな勢力回復は難しい。
しかし、ハッサン(32)と名乗るヒズボラ構成員は取材に対し「我々は決して武器を手放さない。戦力も十分ある」と強弁した。ベイルート南郊のヒズボラ拠点地区でも、9月に殺害された前指導者ハッサン・ナスララ師を弔う人が絶えない。シーア派の女性(65)は「イスラエルは信用できない。戦い続けるべきだ」と訴えた。
停戦継続のカギを握るのはレバノン軍の動きだ。
2006年のイスラエル軍とヒズボラの大規模戦闘では国連決議が停戦につながった。国連決議はレバノン南部からの両者撤退やヒズボラの武装解除を求めたが、レバノン軍の能力不足でヒズボラが強大化し、イスラエルが越境攻撃するなど決議違反が常態化した。
今回のイスラエル、レバノン両政府の合意では、イスラエル軍が60日間で南部から段階的に撤退し、ヒズボラも国境から約30キロのリタニ川以北に退く。南部の緩衝地帯には「唯一の武装組織」としてレバノン軍1万人を早急に展開させ、米国主導で停戦を監視する。その上で06年決議の確実な履行につなげる方針だ。
ただ、レバノン軍元幹部によると、南部に展開された兵は5000人にとどまり、イスラエル軍撤退も進んでいない。南部ではイスラエルの攻撃が続き、レバノン側はイスラエルの合意違反が300件に上ると主張している。レバノンの政治評論家ハサン・ジュニ氏は「レバノン軍が早く着実に任務を果たせるように、資金や装備面で(国際社会からの)一層の支援が欠かせない」と指摘した。
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