家では話せるのに、学校では喋れなくなる...ドラマ「放課後カルテ」で注目された「場面緘黙」の子が身近にいたら?専門家に聞く
J-CASTニュース / 2025年1月2日 12時0分
学校の教室(イメージ)
俳優の松下洸平さんが主演の土曜ドラマ「放課後カルテ」(日本テレビ系)の2024年12月6日の第8話で、家では話せるのに学校では話すことができない「場面緘黙(ばめんかんもく)」の女の子を中心としたストーリーが放送された。Xでは「場面緘黙」が一時トレンド入りするなど、話題になった。
身近に場面緘黙の子どもがいた場合、どのように接することが望ましいのだろうか――。場面緘黙に関する情報交換や理解促進のための活動を行う「かんもくネット」の代表で臨床心理士の角田圭子さんはJ-CASTニュースの取材に、「質問はせずに、普通に話しかけてほしい」と話す。
放課後カルテで注目
「放課後カルテ」は、学校医として小学校の保健室に常駐することになった小児科医・牧野峻(松下さん)が、子どもたちの「言葉にできないSOS」を見抜き、子どもやその家族を救っていくヒューマンドラマだ。原作コミック(日生マユ、講談社)も人気を博した。
ドラマ第8話で登場した小学1年生の真愛(子役の英茉さん)は、家では元気に話せるのに、学校では話せない。主人公で学校医の牧野(松下さん)は、それに悩む母・彩(野波麻帆さん)と、真愛の担任・芳野(ホラン千秋さん)から相談を受ける。牧野は、真愛が「場面緘黙」だと判断。交換日記で真愛と仲良くなろうと試みる――という内容だった。
場面緘黙とは、家などでは会話できるものの、学校など話すことが期待される特定の状況でそれが困難となる症状だ。「身体の緊張が強く、思い通りに動くことができない人もいる」(福村出版「教職をめざす人のための特別支援教育 基礎から学べる子どもの理解と支援」、奥村真衣子・信州大学助教)という。
ドラマ内でも、学校での真愛は無表情で、担任の芳野やクラスメートに話しかけられても、無反応か、わずかに首を動かすことしかできなかった。
ドラマでは学校医の牧野が、真愛に対する接し方として「無理に話させようとしない」「過剰に褒めることも緊張につながる」と話す場面があった。そのほか、大勢の前に立つ「音楽会」では、真愛の緊張を和らげるため、声を出さなくても参加できる振付けを取り入れるといった工夫をしていた。
一方で、クラスメートの男子が「なんで喋らないの?」「みんなで喋れって言おうぜ」と発言する場面も。適切な理解がなければ、実際にこのようなことを言ってしまう人もいるかもしれない。
子どもたちには「話すとか話さないとか関係なく」接してほしい
「かんもくネット」の代表で臨床心理士の角田圭子さんに話を聞くと、身近に場面緘黙の子どもがいたら「質問はせずに、普通に話しかけてほしい」と話す。
クラスメートなど場面緘黙の子と近しい子どもに対しては、「話すとか話さないとか関係なく、仲間に入れて、一緒に遊んでほしい」という。
話すことに注目することはNGだ。かんもくネットが配布しているリーフレットによると、次のように説明されている。
「・『どうしてはなさないの?』『「あ」っていってみて』と、いわれると、とてもつらいきもちになります。
・はなしたときに『あ!しゃべった!』といわれると ドキドキしてしまいます。
・『はなした』『はなさない』に、ちゅうもくしないでください」
こうした接し方をクラスメートに理解してもらうためにはどうしたらよいか。
クラスメートに「家では普通に話せるけど、クラスではまだ緊張していて話すことが苦手です」「みんな苦手なことあるよね?」「みんなも発表するとき、ドキドキすることないかな?」など、子どもにとって理解しやすい言い方で説明することが大切だ。事前に必ず保護者と相談してほしい。
子どもと保護者の了承を得た上で、絵本「なっちゃんの声-学校で話せない子どもたちの理解のために」(はやしみこ著、学苑社)を、その子がいない教室で、先生が読む方法がある。さらに、サンプルメッセージをもとに場面緘黙の子自身が書いた作文を先生に読んでもらい、子ども自身の気持ちを伝えることもある。そのあとで、クラスのみんなから一言メッセージを書いてもらうとお互いの気持ちがわかって関係がよくなる。
角田さんは、「場面緘黙の子どもの親からおしゃべりの練習の協力を求められたら、協力してほしい」と話す。たとえば、知り合いの人なら、電話で話す練習に付き合ってほしい。図書館やお店の人は子どもからの質問につきあってほしい。また、放課後の教室で、学校の先生や友達など少人数でおしゃべりの練習の支援をすることがある。先生は会議や出張で参加できないケースもあるが、できるだけ協力してほしい。スクールカウンセラーや、友達にも協力してもらえるとありがたい、と説明した。
「話せたときに大げさに褒めてはいけない」のはなぜか
ドラマで言及されていた「話せたときに大げさに褒めてはいけない」ことについて、角田さんは、子ども自身が話す練習に取り組んでいる場合であれば問題ないが、
「(場面緘黙の子どもは)自分が話したらどう反応するだろうと身構えがあるところに、人前で大げさに褒められると、びっくりしちゃう。それで怖がってしまうこともあるので、そこは慎重であるべきだと思います」
と指摘する。褒める場合は、みんなの前ではなく2人で話す機会に褒めることや、話した内容を褒めることを勧める。
子どもの症状に応じた支援が必要
場面緘黙の子どもへの対応についてはどうか。
角田さんは、「その子の状態に応じて学校での対応も変わってくる」と話す。一般的に「こう」というのはなかなか難しい。角田さんが小児科で支援するときには、「学校での行動表出のチェックリスト」を用いてどこから支援すべきかを保護者や先生と共有する。
「話すこと以外に、授業や活動など学校生活への参加が難しい子はそこに対する支援が必要ですし、動作や表現が難しい子は、その動作に対する支援がやっぱり必要です。たとえば、トイレに行けず困っているのであれば、休み時間に先生は全体に声をかけるという対応が必要です。給食が食べられないのであれば、量を調節したり、子どもが自分で減らす方法を先生と確認したり。体育の着替えが難しい場合は、別室や衝立中で着替えることから始めます。学習に支援が必要な子もいます」
そのうえで、不安の低いことからスモールステップでできる行動を積み上げていくことが重要だと説明する。
たとえば、まだ話せる段階ではないにもかかわらず、教室で「話しなさい」などと強制するのはNGだ。「放課後カルテ」の真愛のように、ジェスチャーでの意思表示が難しい場合には、「はい/いいえ」で回答できる質問をして、首をふって答えることを目標にしてもいい。自宅や公園でお友達と、あるいはお店や放課後の教室などで、声が出せるようになってきたら、学校で話すことを促す支援が必要になってくる。
反対に、すでに話せる場面で、ジェスチャーで回答できる「はい/いいえ」の質問をたくさんしてしまうと、話さなくても済んでしまう。これは、支援どころか、子どもの話す機会を奪ってしまうことになる。
角田さんは、「家から一歩出たら全く話せない状態の子もいるし、お友達とは話せたり、お店やお稽古事では話せる段階にいる子もいて、子どもによって症状にバリエーションがあります。その子の状態に応じて支援の仕方が変わってくるということは、知っておいていただけたらなと思います」と話す。
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