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スマホのように、1人1台のロボット…AI進歩で「夢物語ではない」近未来

読売新聞 / 2025年1月8日 11時0分

AIの発展がもたらす社会や暮らしの変化の予測

[AI近未来]第1部<1>

 「今から持ち上げますね。どこか不快感はありますか」

 ベッドに寝かせたマネキンに、人型ロボットが話しかける。左手を背中に差し伸べ、起き上がらせようとするロボット。キッチンを模したスペースでは、容器に入ったお茶を一滴もこぼさずコップに注いでみせた。

 東京都新宿区にある早稲田大の次世代ロボット研究機構。産学の開発チームを率いる同大の菅野重樹教授(66)が、我が子を見守るようにその様子を見つめる。

 1人に1台、一生寄り添う――。4月に開幕する大阪・関西万博では、そんなコンセプトの人型スマートロボット「AIREC(アイレック)」が披露される。

 アイレックの頭脳にはAI(人工知能)が搭載されている。人間がロボットの手や腕を遠隔操作することで、AIが人の動作を学習。体を起き上がらせたり、トイレを掃除したり、様々なスキルを習得した。料理にも挑戦中。スクランブルエッグなら、フライパンで卵の固まり具合に合わせた混ぜ方をマスターした。

 菅野教授は、アイレックが人の暮らしを支え、人と共生する社会を思い描く。

 10年先には、人の指示を受けて洗濯物を畳んだり、火加減が難しいオムレツを作ったり、人を手助けする動作が増える。家事だけではなく、健康も管理。人の体に機器を当てて超音波検査を行い、病気やけががないか調べる能力も身につける。

 そして2040年、アイレックは研究室を飛び出す。50年には社会に溶け込んで、人の意図をくみ取って動き回る。家の中では、住人の指示がなくても率先して好みの料理を作ったり、掃除をしたりする。住人の体調が悪く、歩くのも難しければ、車いすに乗せて病院に付き添う。

 「スマートフォンのように、生まれた時からロボットが家庭にいて人を支える未来が待っている」と語る菅野教授。1970年の大阪万博では、携帯電話の原型「ワイヤレステレホン」や「動く歩道」が注目され、今や社会に広く普及した。スマートロボットの構想も決して夢物語ではない。

 人とロボットが一緒に暮らすうちに、人は、家族のように愛情を抱き、ロボットも人の感情や価値観を理解して動く日が来る――。菅野教授は、開発の延長線上にそんな未来を予想する。

 AIの進歩によって、人の暮らしや社会のありようは、さらに変容する可能性を秘める。

 野村総合研究所によると、世界のAI研究者約2800人への調査を基にした論文(2024年)では、今後10年以内に、〈ロボットが洗濯物を畳む〉〈小売店の従業員がロボットに置き換わる〉といった変革が50%の確率で実現する可能性があるとされた。野村総研の森健デジタル社会・経済研究室長は「2030年代にはAIの搭載されたロボットが、一部の肉体労働も担い始めるとの見方が多い」と話す。

 研究者の間では、AIの近未来に楽観と悲観が交錯している。同論文では、68%の回答者が「良い結果の方が悪い結果よりも起こりやすい」とした。一方、「人類滅亡のような極端に悪い結果が起こる可能性がゼロではない」とする回答者も58%に達した。

 AIによって暮らしの豊かさや経済成長、医療の進歩などが期待される一方、雇用の喪失や、偽情報の拡散による社会の分断、軍事への悪用といった懸念は根強い。

 人間と会話しているかのような文章を生み出す生成AIが急速に広まってから2年余り。さらに進化を続けるAIは「ドラえもん」のように人を手助けしてくれるパートナーになるのか。それとも、人の知能を超え、人類の命運を左右する脅威になるのか。AI社会の近未来を展望する。

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