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戒厳令後の混乱 理解し難い韓国の政治と司法

読売新聞 / 2025年1月4日 5時0分

 現職大統領の逮捕は見送られたものの、政治や司法をめぐる混迷はむしろ深まっている。韓国はどこへ向かうのか。

 尹錫悦大統領を内乱容疑などで捜査している高位公職者犯罪捜査庁(公捜庁)の捜査官らが、尹氏の逮捕状を執行するため、ソウル市内の大統領公邸の敷地内に進入した。

 だが、公邸を警護する大統領警護庁の部隊に阻まれた。数時間に及ぶにらみ合いの末、公捜庁は、逮捕状執行は「不可能」だとして中止を発表した。

 現職大統領が逮捕されれば韓国史上初となるところだった。捜査当局が身柄確保のために公邸に迫りながら、取りやめになるのもまた異様である。

 公邸周辺は多数の警官や警察車両が配備され、緊迫した雰囲気に包まれた。大規模な衝突などが起きなかったのは幸いだった。

 尹氏が唐突に非常戒厳を宣言してから1か月となる。この間、国会は尹氏に対する弾劾だんがい訴追案を可決し、尹氏は憲法裁判所での弾劾審判に臨む。裁判所でのプロセスと並行して、尹氏に対する捜査が進む異例の展開である。

 韓国特有の司法制度が、事態を複雑にしている面もある。

 尹氏の捜査を主導している公捜庁は、検察に替わって政府高官や国会議員らを捜査する捜査機関として、文在寅政権下で発足した。尹氏を内乱の「首謀者」と位置づけ、逮捕状を請求した。

 裁判所は請求を認めたが、尹氏の弁護側は、公捜庁には内乱罪の捜査権はないとの立場だ。公捜庁などによる3回の出頭要請にも応じず、憲法裁に逮捕状の効力を停止する仮処分を申請している。

 法解釈をめぐり、捜査当局と尹氏の側には大きな開きがある。それぞれの言い分に基づいてこのまま行動を続けていけば、深刻な衝突に発展する恐れすらある。

 国会でも、多数を占める野党が、大統領に続き、大統領代行の首相の弾劾訴追を主導し、与党を揺さぶり続けている。

 この間、韓国では179人が死亡する飛行機事故が起きた。トランプ米政権の発足を前に、北朝鮮の動向をはじめ国際情勢も大きく揺れている。韓国の政治や司法の機能不全が、内政や外交に与える悪影響は計り知れない。

 与野党や司法関係者らすべての当事者が、冷静さを取り戻し、意見の違いや問題を整理すべき時に来ているのではないか。知恵を出し合い、事態を収拾に向かわせる方策を見いだしてほしい。

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