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「戦争体験者が記憶を語れる最後のチャンス」…戦後80年へ「語り部」育成に力、国の補助4倍で1億円に

読売新聞 / 2025年1月4日 9時26分

 戦後80年となる年が明けた。戦禍を直接知る人が少なくなる中、厚生労働省は2024年度に始めた語り部活動への補助を25年度には4倍にする考えだ。戦没者の遺族らでつくる各地の遺族会は戦争体験の継承に向け、語り部の育成に力を入れている。(福井支局 浜崎春香)

福井空襲

 「福井市の方角を見たら、打ち上げ花火のように真っ赤で、恐怖で思わず手を合わせた」。昨年12月、福井県あわら市で開かれた県遺族連合会の研修会。副会長の平田修次さん(80)は会員ら約100人を前に、祖父がかつて語ってくれた1945年7月の福井空襲の様子を語った。

 生まれる前に出征した父はフィリピンで戦死したこと、生活が苦しく、小学生の頃から牛乳配達や新聞配達で家計を支えたこと……。平田さんが自身の半生を大勢の前で語ったのは、この日が初めてだった。

 県遺族連合会には語り部がいなかったため、昨夏、「平和の語り部推進委員会」を設置して育成に乗り出した。参加するのは50~80歳代の6人。平田さんはロシアによるウクライナ侵略のニュースなどに胸を痛め、「自分と同じような苦労をもう誰にもさせてはいけない」と手を挙げた。

 6人は研修会で、お互いの幼少期や親族の体験を共有して講演内容を磨き、学校で子どもらに講演することを目指す。平田さんは「子どもらに戦争の悲惨さを伝えて、平和のために何ができるのかを考えるきっかけを作りたい」と話す。

全国で230人

 日本遺族会が2023年に各地の遺族会に実施した調査では、語り部は全国で少なくとも230人。自主的に活動している人もおり、実数は不明だという。

 戦後80年を見据え、同会は23年度から各地の遺族会と連携して育成に乗り出し、戦時中の記憶を喚起してもらうための「自分史」作りの支援などを行っている。

 国も後押しをしようと、厚労省は24年度に初めて日本遺族会に2500万円を補助し、25年度予算案では4倍となる1億円を盛り込んでいる。語り部活動の人件費のほか、戦争体験者の証言の記録映像撮影などを念頭に置く。厚労省の担当者は「戦争体験者が自身の言葉で記憶を語れる最後のチャンス。彼らの経験を語り継ぐための活動をさらに充実させてほしい」と話す。

文字や音声で記録

 約10年前に戦争体験者による語り部活動を始めた宮崎県遺族連合会では23年度から、戦後生まれの会員らも活動に加えた。現在は40~60歳代の数人が地域の図書館や戦争の慰霊碑に足を運ぶなどし、戦争に関する知識を深めている。

 兵庫県遺族会も数年前から語り部活動を本格化。今後は、戦後生まれの会員が戦争体験者から直接聞き取り、文字や音声で記録して継承に生かす取り組みを進めたいという。担当者は「語り継がれるべき戦時中の証言を残せる機会は今しかない」と語る。

 約20年前から語り部活動を続ける秋田県遺族連合会の「戦没者遺児の会」の伊藤薫会長(90)は「終戦から80年近くたち、戦争がどんな犠牲やつらさをもたらすのかを想像しにくくなっているように感じる。人前で話すことにハードルを感じる人も少なくないため、語り部の担い手は思うように増えていない。文字で体験談を書き残す取り組みも進めていきたい」と話した。

映像・慰霊碑活用を 講話と組み合わせて

 語り部育成に詳しい二松学舎大・林英一准教授(日本近現代史)の話「語り部は体験した戦争を感情の面でも記憶している。対面で語り継ぐことで、当時の様子がわかる場所や物だけでは理解できない記憶も伝えられる。聞き手と対話もできるため、共感を深めやすい。しかし、今後は語る側も聞く側も戦争を体験していないことが前提になる。当時の映像や地図を使ったり、慰霊碑を見に行ったりするなど、講話と他の手段を組み合わせて継承していくことが、より必要になるのではないか」

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