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南海トラフ震源、AIで「誤差数キロ」まで迅速に推定…津波の高さ・到達時間など予測精度向上へ

読売新聞 / 2025年1月4日 15時0分

 南海トラフ地震の発生時に、より正確な震源の位置を迅速に推定できるシステムを国立研究開発法人・海洋研究開発機構のチームが開発した。人工知能(AI)を活用し、従来手法での20キロ・メートル前後の誤差を数キロまで抑えられる。津波の高さや到達時間、激しく揺れる地域といった予測の精度を向上させ、適切な避難行動につなげるのが狙い。2025年春にもシステムを公開し、実用化を目指す。

 地震発生時、気象庁は各地で観測した地震波を基に震源地を推定し、緊急地震速報や津波情報の運用に生かしている。地震波は地下構造に応じて複雑に伝わるが、震源地をより速く算出しようと、地下構造を単純化したモデルを使っている。

 そのため実際の震源とずれが生じる。24年8月に宮崎県沖の日向灘で発生した地震では、震源の位置を深さ20キロと推定した緊急地震速報が出されたが、その後、約30キロと修正された。

 同機構はより実際に近い震源の位置を自動推定できるシステム作りに着手。南海トラフ地震の想定震源域の地質などを反映した3次元モデルを独自に作成し、活用することにした。

 3次元モデルを使った計算は時間がかかることが課題だったが、AIを活用して高速計算ができる新システムを開発した。

 南海トラフ地震を想定した計算実験を行ったところ、従来手法では約20キロの誤差が出るケースがあったが、このシステムを使えば、より正確に推定できることを確認。計算自体は5秒程度で済み、緊急地震速報を出すまでの時間も現行平均の20秒程度とほぼ変わらなくなる見込みだという。

 ただ実用化するには、地震の揺れや津波の高さなどをどこまで精度良く予測できるかを実際に示す必要がある。同機構は近く、システムを研究者向けに公開し、過去の観測データを使った解析などを通じて有効性を検証してもらう計画だ。

 チームのあがた亮一郎・同機構研究員(計算地震学)は「数年後には民間業者による津波予報などに活用してもらい、最終的には気象庁の緊急地震速報や津波警報へのシステム導入を目指したい」としている。

「防災力」押し上げに期待

 東日本大震災の発生当初、気象庁は最大で高さ6メートルの津波を予想する大津波警報を発表したが、実際は予想を大幅に超える地域が相次いだ。正確に予測できなかったのは、地震の規模を過小評価したのが主な原因で、震源の深さの誤差も14キロ・メートルあった。

 正確な予測は住民の命に直結する。南海トラフ地震を巡っては、想定震源域で整備されてきた海底観測網が年内に完成予定で、今回のシステムが実用化されれば、新たな観測データとの相乗効果も期待できる。

 海洋研究開発機構は、他の地震での震源地推定にも役立てようと、関東~東北沖の日本海溝を対象にした3次元モデルの作成を進めている。京都大の山田真澄・准教授(地震学)は「3次元モデルは地下の活動を詳しく分析できるため、地震の発生メカニズムの理解にもつながるだろう」と指摘。日本の防災力を大きく押し上げる成果を望みたい。(大阪科学医療部 松田俊輔)

 ◆南海トラフ地震=静岡県沖から宮崎県沖に延びる南海トラフを震源とする地震。約100~150年間隔で繰り返し起きており、政府の地震調査委員会によると、今後30年以内の発生確率は70~80%。死者・行方不明者は最大約23万1000人と想定されている。

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