地域の災害情報を24時間発信、AIアナ「ナナコ」開発…専従5人でも「災害に強いFM局に」
読売新聞 / 2025年1月5日 13時31分
「エフエム和歌山」クロスメディア局長 山口誠二さん
きっかけは2011年の東日本大震災だった。
和歌山市のコミュニティーFM「エフエム和歌山」のクロスメディア局長、山口誠二さん(42)は震災の半年後、宮城県内を訪ね、FM局の様子を確かめた時、違和感があった。大半の時間、音楽が流れていたからだ。
避難生活が続く中、地域に根ざした情報のニーズがあると思ったが、人手不足で、そうした情報を提供できていなかった。
「これで災害に強いと言えるのか」
6年後の17年、いざという時に避難情報や生活情報を届けられるシステムを開発した。「AI(人工知能)アナウンサー」の「ナナコ」だ。周波数「87・7メガ・ヘルツ」にちなみ、バナナエフエムの愛称で親しまれており、命名した。女性の設定だ。
AIアナウンサーといっても、ロボットのようなアナウンサーがいるわけではない。米アマゾン子会社のソフトを活用し、原稿を読み上げさせるシステムだ。
東京でプログラマーとして働き、08年のエフエム和歌山の開局に合わせ、郷里の和歌山に戻った。システムには自信があり、さほど苦労せずに完成させた。
エフエム和歌山はNPO法人が運営しており、専従で業務に当たるのはわずか5人。原稿を入力すると、ナナコは疲れ知らずで24時間情報を伝え続ける。本当に頼りになる存在だ。
当初、ニュース原稿を読ませた。「あのへたくそなアナウンサーをやめさせろ」というメールが届いたが、山口さんは落ち込むことなく、手応えを感じた。「機械に頼るな」という反応ではなかったからだ。
17年9月の台風18号では、5時間にわたり、停電した地区名や台風の進路などを切れ目なく放送し続けた。ナナコは学習機能を備えており、少しずつ話しぶりが滑らかになってきた。
18年の西日本豪雨では、深夜に和歌山にも警報などが発表された。山口さんは自宅で原稿を打ち込んで、ナナコによる放送を行った。安定感はどんどん増していった。
「ナナコ、頑張っていたね」。リスナーからそう褒められることが増えた。
全国に先駆けた取り組みとして耳目を集め、各地にある約40のラジオ局に同様のシステムが広がった。
ただし、山口さんは「人間の方が感情が乗るし、機転が利く」。アナウンサーによる放送を第一とし、ナナコを補佐的に使う姿勢を変えるつもりはないという。
エフエム和歌山の聴取エリアは和歌山市、岩出市など。南海トラフ地震が起これば、県内で大きな被害が予想される紀南の沿岸部に比べ、報道されることが少なくなる可能性が高い。
山口さんは「『自分の地域は大丈夫なのか』というニーズに応えるのがコミュニティー局の使命だ。AIと人間が協力して、質の高い放送を追求していく」と力を込める。(竹内涼)
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