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小説「ゆびさきに魔法」三浦しをんさん 心に輝き、ネイリストの世界描く

読売新聞 / 2025年1月9日 15時20分

 「爪の先ほど」という言葉は小さいものの例えだが、そこに美の世界を創り上げる人々がいる。三浦しをんさん(48)=写真=の『ゆびさきに魔法』(文芸春秋)は、ネイリストの世界を描いた長編小説だ。自身もネイルを愛する作家は、〈ひとの心と生活を支える輝きを放つ〉と表現する。

 「仕事をする時は、手しか視界に入らない。爪がきれいじゃないと、テンション、ガタ落ちなんです」。ネイルサロンに長年通っているという作家の指先は、美しく装飾されていた。本作は、男性読者も多い雑誌「文芸春秋」での連載だった。「どんな人たちが、どんな思いでネイリストとして働いていて、どんなお客さんがいるのか。全然知らない方にも興味を持ってもらえたらと思った」と語る。

 商店街の一角でネイルサロンを営む月島は、飲み屋で知り合った若い女性・星絵を雇う。キャリアもセンスも異なる相棒バディとのユーモラスな日々の中で浮かび上がるのは、奥深くも繊細な世界。そして〈チャラついている〉という偏見や、周囲の目を気にして自由な(かっ)(こう)ができない息苦しさも織り込まれる。「女性を主人公にすると、社会の中で苦しむ部分を、意識せずに書くことはできなくて」。かつて一緒に働いていた友人に対する憧れ、自らの技術やセンスに対する自負やあきらめなど、月島の心理が丁寧につづられていく。

 月島はお風呂でリラックスしている時も、他の人が作ったネイルの画像を検索せずにはいられない。〈自己表現を追求する芸術〉ではなく、客の要望にこたえて数をこなす〈技術〉でもない。その間にある正解がない世界に生きる人々の情熱と葛藤は、普遍的な物語として胸に迫る。「悩みや人間関係、なんでそんなに打ち込んでしまうのかという部分など、一生懸命な人の心理を描きたくなる」。辞書編集者の世界を扱った『舟を編む』などの作品にも通じる、仕事を通じてその奥にある人間の本質を見つめるのが、この作家のスタイルなのかもしれない。

 本作の取材時期はコロナ禍と重なった。緊急事態宣言などで休業を余儀なくされる店もあった中で、「こんなに心の支えになるものが、なくなるわけがないと思った」。熱い思いは物語にも投影されている。「なぜ外見を飾るかというと、心の安定につながるからなんです。誰かに見せるとか、モテるためではなくて」(川村律文)

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