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反戦の思い、全編セリフを排した異色の「サイレントコミック」で……沖縄出身の大白小蟹さん

読売新聞 / 2025年1月13日 15時30分

大白小蟹さん自画像

 全編セリフを排した「サイレントコミック」の形で、反戦への思いを描いた新刊『太郎とTARO』(リイド社)を(おお)(しろ)()(がに)さん(30)が刊行した。沖縄県生まれの新進気鋭の漫画家だ。桃太郎をモチーフに、戦争を(ぐう)()的に紡ぐことに挑んでいる。(高梨しのぶ)

桃太郎モチーフ 2冊1組で

 「一番のモチベーションは、二度と沖縄を戦場にしたくないという思いです」

 1994年生まれの大白さんは、幼い頃から漫画が好きだった。学校の平和学習などで、戦争について考える機会が繰り返しあった。18歳まで沖縄で過ごした後、関東の大学に進み、漫画やデザインの表現を学ぶ一方、友人らと同人誌即売会「コミティア」にも参加した。

 大学の卒業制作に、実家で祖母と同居した頃の生活を漫画にして提出した。ただ、「祖母の戦争体験については、当時、真正面から向き合って描けなかった」と振り返る。講評の場で、教員から「戦争もおばあちゃんの人生の一部だろうから、描かないわけにはいかないと思う」と言われた。戦争に向き合いたいと考え、進学した大学院の修了制作として2019年に『太郎とTARO』の原型となる作品を描き上げた。この作品を編集、改稿したのが今作だ。

 当時は「2年間の大学院生活では、沖縄戦のことを描くには実力不足で、描ける気がしなかった」という。その頃手に取った、独裁者をおとぎ話の形式で描いた米国のジョージ・ソーンダーズさんの小説『短くて恐ろしいフィルの時代』に触れた経験から「寓話の形でなら、今の自分でも描けるかもしれない」と、作品の方向性が決まった。

 寓話のモチーフは、日本の昔話として誰もが知っている桃太郎を選んだ。福沢諭吉や芥川龍之介が傍若無人な姿に批判的な視線を向けたこともある昔話だ。「桃太郎は、時代によってはプロパガンダ的に使われる物語とも言え、すごく突っ込みどころがある。桃太郎を、自分なりに批判的に描きたかった」

 『太郎とTARO』は、対立する「太郎」と「TARO」の物語を、互いに分けて描いた2冊一組の作品だ。海を隔てて暮らしていた2組の集団に、あるきっかけで争いが生まれる。作中では、どちらが正義で悪なのかをはっきりさせず、それぞれの理由で争いが起こっていることが伝わる。ラストの見開きは、2冊分をつなげると、一枚のパノラマ画面のようになる。

 大白さんは登場人物には服を着せず、肌の色を、鬼にちなんで赤と青の2色のみに分けることで、現実の特定の民族に置き換えて読まれることを避けた。2冊の本は、作品を「右開き」と「左開き」の別方向から読む構造にした。互いに言葉が通じない相手と(たい)()していることを表現した。

 「何が起こっているのかを、なるべくわかりやすくしたかった。サイレントは全てを絵で伝えるので、漫画を描くうえで修業になりました」

「漫画に向き合う」

 本作の原型となる修了作品を描き上げた大白さんは、デザイン会社に就職し、約2年間勤務した。「20代のうちに、もう一度漫画に向き合おう」と、小学3年からの夢だった漫画家への道に挑戦する。22年に『うみべのストーブ 大白小蟹短編集』(リイド社)を刊行。各編の合間には大白さんが詠む短歌が1首ずつ挟まり、その多才ぶりが光る。同作は評判を呼び、宝島社の「このマンガがすごい! 2024」オンナ編で、デビュー作にして1位を獲得した。

 現在はウェブ媒体で別作品を連載中だが、「沖縄戦について、いつか描かないといけない。一番の課題です」と語る。「まだまだ知識不足なので、たくさんの資料にあたった上で、自分がどんなことを描きたいかを考えたい」

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