「人事はつらいよ」新卒採用担当者、5社に1社「ワンオペ」で切り盛り 会社はもっと耳を傾けて!/マイナビ・長谷川洋介さん
J-CASTニュース / 2025年1月6日 19時38分
「ワンオペ人事」に嘆きの声が(写真はイメージ)
「人事はつらいよ」......。「売り手市場」といわれる今、企業の新卒採用担当者は「ワンオペ人事」を嘆いている。
就職情報サイトのマイナビ(東京都千代田区)が2024年11月27日に発表した「2025年卒企業新卒内定状況調査」によると、なんと、新卒採用を「1人」だけで行なっている企業が約5社に1社以上あるという。
人手不足の解決を担うはずの人事の担当者が人員不足でどうするのか。マイナビの長谷川洋介さんに話を聞いた。
大学3年、4年、新入社員を同時進行で対応する忙しさ
マイナビの調査(2024年9月6日~10月4日)は、2025年卒の大学生を採用する全国1616社の人事担当者が対象だ。
まず、新卒採用担当部署の人数を聞くと、「1人」だけが22.7%で、5社に1社以上がワンオペ人事だった。「2人」(35.3%)も含めると、全体の6割近く(58%)が「2人以下」の状態だ【図表1】。
また、新卒採用業務を行いながら、それ以外の業務を兼任しているケースが多く、新卒採用担当部署の全員が「新卒採用専任」という企業は3.7%とごくわずか。新卒採用専任担当者が「いない」と回答した企業も6割となり、他業務との兼ね合いで新卒採用のみに専念・注力できない状況がみられる【図表2】。
こうしたなか、新卒採用専任担当者の業務が広がっている。
インターンシップ・仕事体験がメインの参加対象となる大学3年生、そして、新卒採用の選考対象である4年生、さらに新入社員の入社研修と、3つの卒年の面倒を見なくてはならないケースが多くなっている。
【図表3】が、担当者の一般的な年間スケジュール表だ。
これを見ると、1月~6月は今春入社する25年卒の入社前フォローと、入社後の新人研修。3月~12月は26年卒(大学3年~4年)の選考に注力。さらに、4月~12月は同時並行で27年卒(大学3年)のインターンシップ・仕事体験の運営も行わなければならない。体がいくつあっても足りないくらいだ。
このため、担当者からこんな悩みの声が聞かれる。
「(採用担当部署に)役職者がおらず、全く権限を持っていないため、ほか社員や他部署への協力を受けられない」
「4月から5月という新卒採用に力を入れないといけない時期に、新入社員の研修を対応せねばならず、最大限の採用活動ができていない」
「子どもの大事な行事とかぶった場合や体調を崩した場合に、つらさを感じる」
10年前に比べると、新卒採用担当者は3分の1に減った
J‐CASTニュースBiz編集部は、調査を行なったマイナビ・キャリアリサーチラボ研究員の長谷川洋介さんに話を聞いた。
――「ワンオペ家事」が働く女性の間で問題になっていますが、「ワンオペ人事」という悲しい言葉、初めて聞きました。人事と言えば、ひと昔前まで社内ににらみを利かせる花形部署でしたが、現在、なぜ地位が下がっているのでしょうか。
長谷川洋介さん 人員不足であるのは、人事の地位が低いからではないと考えます。会社の人員計画に携わる人事部門の地位は、依然として多くの企業で重要な職務として位置づけられています。
ただ、新卒採用専任の担当者数を過去と比較すると減少傾向が見られます。弊社の最も古い2015年の調査では担当者数は平均2.1人ですが、最新調査では平均0.7人。つまり、約10年で3分の1に減っています。
日本全体で人手不足が進行しているなか、採用部門の人員を増やしたくても増やせない企業が多いのが現実です。
また、「社員の異動・給与等」にかかわる業務なども新卒採用部門で担当している場合がある企業が6割以上あり、多くの企業で兼任している状況にあると考えられます。
――それは大変じゃないですか。人手不足の折り、どの企業も新卒採用をしっかりとらないといけない状況のなか、もっと企業は新卒採用担当を軽視しないで重んじてほしいものですね。
長谷川洋介さん 人員不足であっても、新卒採用担当者が軽視されているわけではないと思います。終身雇用が当たり前ではなくなった現在、雇用の流動化が進んでいます。新卒採用だけでなく、第二新卒や中途採用、アルムナイ採用(自社を退職した人の再雇用)など多様になっています。
新卒採用の担当者がそれ以外の採用業務を担うケースも多く見受けられるため、兼務者が増えているのが実態です。
ただ、担当者の悩みに「(採用部門に)役職者がおらず、他社員や他部署への協力要請時に協力を得られない」というコメントがあったように、組織編成上の理由で、部門の声が経営層や他部署に届きづらい状況におかれている企業もあるようです。
大学1・2年生も含めると、4つの卒年を同時進行
――それにしても3つの卒年を同時進行でみるのは忙しいと思います。しかも、近年はオープン・カンパニーやキャリア教育など、大学1・2年生を対象にしたキャリア形成支援に着手する企業も増えています。対応する卒年が3つ以上になるケースも珍しくないのではないですか。
長谷川洋介さん インターンシップが本格化するのは主に大学3年生ですが、学生の多くがより低学年の段階からキャリア形成活動を始めたほうがいいと感じている調査結果もあります。オープン・カンパニーやキャリア教育は大学低学年でも参加可能なプログラムであるため、2年生以下に対応する場合もあるかと思います。
ただ、業務負担が増える可能性がある一方で、必ずしも3年生用と2年生用にプログラムを分ける必要はありません。企業としては学生に対してより早い段階で自社の魅力を訴求して企業認知の向上につなげることができ、結果として採用の面で良い効果を期待できるメリットも考えられます。
より低学年からキャリア形成活動に参加したほうがよいと感じる学生側の意向ともマッチするため、必ずしもデメリットばかりとは言い切れないでしょう。
――「子どもの大事な行事を重なって...」などの「人事はつらいよ」という担当者の悩みに報いるには、企業はどうすべきだと考えますか。
長谷川洋介さん 少ない人数、限られた人員構成の中で採用業務を進めるために「面接官は現場役職者に任せている。面接官には面接官研修を実施し、自身は裏方に徹している」という声もありましたが、採用部門外の社員を動員し、協力してもらうことで、任せられる業務は切り出して任せていくことも重要です。
また、業務をアウトソースしたり、採用管理システムを導入して業務を自動化したりするケースや、説明会や一次選考をWebで行なうなど、業務をオンライン化する工夫を行っている企業もあります。
AIを活用することで採用業務を効率化する方法もあります。「求人の文章の作成」や「企業紹介等のパワーポイントや動画が生成できるとよい」といった声もあり、今後AIの技術が発展するにしたがって、採用現場の負担を軽減できるような状況が生まれてくる可能性はあると思います。
企業は、学生が就活に生成AIを利用することに好意的
――ところで、採用担当者がこれほど人手不足だという現実を考えると、就活生は「生成AIをもっと積極的に活用しても大丈夫」ということにならないでしょうか。エントリーシートなどで生成AIを使っていると見抜かれるとヤバイのではないかという不安が、就活生にあると聞きます。
長谷川洋介さん 学生は就活に生成AIを利用しないほうがよいという企業は少数派で、約6割が活用に好意的です。
ただ、「そのままアウトプットを使うのはNG」や「楽(らく)をする目的ではなく、論点や観点の洗い出しをAIに補助してもらい、自身の考えを深堀してから選考に参加してくれれば、企業理解がより効果的に行える」など、あくまで補助的な利用を想定しています。
また、学生が生成AIを使うことへの「対応の必要性を感じない」という企業がほとんどです。検討している対応として多いのは「面接でエントリーシートの内容と異なる質問をする・深堀質問をする」です。志望動機などをAIのアウトプットに頼り切って作成し、面接での受け答えに違和感があれば見抜かれる可能性は高いと言えます。
ですから、採用担当のマンパワー不足が学生のAI利用に影響を与える、ということは考えにくいかもしれません。
企業は、新卒採用担当者の重大なミッションを理解すべき
――なるほど。普通に生成AIを使って問題ないということですね。孤軍奮闘している採用担当者へのエールをお願いします。
長谷川洋介さん 人手不足を補う役割を持つはずの採用担当者自身がマンパワー不足を感じる立場に置かれているのは、日本の人手不足を象徴するような状況だと思います。
今回調査では、少ない人数で採用業務を行う企業の工夫などを紹介していますので、担当者の方々の参考になればと思います。
企業が新卒採用を行う理由の上位は「組織の存続・強化」「年齢など人員構成の適正化」ですが、会社としてこうした経営上の重要なミッションを担う新卒採用担当者の役割について改めて考えていく。適切なリソース配分を行うことが、採用担当者が感じるマンパワー不足、現場の負担を軽減・解消していくための第一歩だと考えます。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)
【プロフィール】
長谷川洋介(はせがわ・ようすけ)
株式会社マイナビ社長室 キャリアリサーチ統括部キャリアリサーチラボ研究員
2017年中途入社。「マイナビ転職」の求人情報や採用支援ツールの制作に携わった後、現職の新卒採用領域を担当。就職活動中の学生を対象にした調査や、就職活動生の保護者調査などを担当、若年層の思考や世代間ギャップなどに関心を持つ。その他関心領域はエッセンシャルワーカー、SFプロトタイピングなど。
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