石破政権の目玉政策「最低賃金1500円以上」...企業の半数「実現不可能」 財界も賛否両論真っ二つの事態
J-CASTニュース / 2025年1月7日 18時28分
時給が上がってほしいが…(写真はイメージ)
石破茂政権が2020年代中に最低賃金1500円(時給)以上の達成を政権公約に掲げたことで、企業の間に動揺が広がっている。
働く人にとって賃上げはうれしいが、物価高による収益悪化で「賃上げ疲れ」に陥る企業の多いからだ。東京商工リサーチが2024年12月16日に発表した「2024年『最低賃金1500円に関するアンケート』調査」によると、約半数の企業が「最低賃金1500円の達成は不可能だ」と答えている。
賃上げの行方はどうなるのか。調査担当者に聞いた。
「劇薬だ」「できない企業は市場退出せよ」 経済団体の中でも賛否両論
2024年10月に全国の最低賃金(時給)が平均1055円に引き上げられたが、政府はさらなる引き上げに躍起だ。
石破茂首相は2024年9月の自民党総裁選で、「2020年代に全国平均で時給1500円を目指す」とぶち上げ、岸田文雄前政権が「2030年代半ばまで」としてきた政府目標を大幅に前倒しした。同年末にまとめた看板政策「地方創生2.0」の柱に据えた。
これに対し、日本商工会議所の小林健会頭は「急激に最低賃金を上げると、廃業せざるを得ない中小企業が出てくる」と警戒。経団連の十倉雅和会長も「劇薬になる。乱暴な議論だ」と慎重な検討を要望した。一方、経済同友会の新浪剛史代表幹事は「2020年代中といわず、3年以内に達成してほしい。できない企業は市場から退場すべき」と主張する。経済団体の中でも意見が分かれた。
東京商工リサーチの調査(2024年12月2~9日)は、全国5277社が対象だ。最低賃金の時給平均額を1055円から1500円に引き上げるには、5年間で合計42.1%の賃上げが必要となる。毎年約7%台ずつの賃上げを迫られる計算だ。
「あと5年以内に、時給1500円に引き上げることは可能か」と聞くと、約5割(48.4%)の企業が「実現は不可能」と回答した。その一方で、「すでに時給1500円以上を達成」している企業も15.1%あることがわかった【図表1】。
「実現は不可能」と回答した企業に、どうすれば実現できるかを聞くと、最多は「賃上げ促進税制の拡充」で半数を占めた。次いで、「生産性向上に向けた投資への助成、税制優遇」「低価格で受注する企業の市場からの退場促進」と続いた【図表2】。
政府の税制面を中心に支援と、賃上げに必要な原資となる価格転嫁の促進が最大のポイントとなっているようだ。
最も時給が高い東京都でも、4社に1社が「不可能」
J‐CASTニュースBiz編集部は、調査を担当した東京商工リサーチ情報本部の内田峻平(うちだ・しゅんぺい)さんに話を聞いた。
――5年以内に時給1500円に引き上げることが「不可能」と答えた企業が約半数という結果ですが、調査担当者としてはどう評価しますか。予想より多いでしょうか、少ないでしょうか。
内田峻平さん 個人的には多いと感じました。「不可能」の割合が最も低かったのは東京都の26.0%です。2024年度に東京都は1163円と、全国で最も平均時給が高いところですが、それでも約4社に1社が「できない」「不可能」と考えている計算になります。
地方にはまだまだ平均時給が低いところがたくさんあります。時給を引き上げられないと「人件費高騰」倒産など、倒産を押し上げる要因になりかねません。
――5年以内で時給1500円に引き上げるには合計約42%、年率にして毎年7%台の継続的な賃上げが必要ですが、担当者として可能だと思いますか。
内田峻平さん 中小企業の収益力の引き上げは想定以上に難しいのが実情です。しかも、物価高や社会保険料の対象拡大などもあり、今後5年以内の1500円の実現は現状では難しいと考えます。
「払えなければ市場から退出すべき」は強者の論理
――経済団体の中でも、日本商工会議所や経団連のように、2020年代中に時給1500円に引き上げることに慎重な一方、経済同友会のように「1500円を達成できない企業は市場から退出し、支払える企業に人手が移れば経済は活性化する」と時給引き上げを加速すべきだという考えの団体もあります。経済団体の中で意見が割れていることについてはどう分析しますか。
内田峻平さん 現在の環境を考慮すると、慎重な見方が妥当と考えます。働く人からは当然引き上げを求める声が出てくるでしょう。それだけに机上の空論ではなく、現実的な企業の立場と働く人の声を聞くことが必要だと思います。
ただ、支援をどこまでするかの話が出ないまま、「払えなければ市場から退出すべき」との意見は強者の論理だと思います。
――ところで、業種別調査結果を見ると、時給1500円を達成している企業が金融保険業や情報通信に多い一方、「不可能」だと答える企業が小売業や製造業が多い理由は何でしょうか。
内田峻平さん 専門性が求められる業種は、もともと賃金が高く時給1500円を達成している割合も高いです。これは製品や提供するサービスの付加価値との関係も大きいと思います。
一方、製造業や小売業など、付加価値を高めることが難しい業種、値上げが難しい業種は顧客離れなどを懸念し、収益力の向上が難しいことを反映しているのかもしれません。
地域や業種の差を認識し、画一的でないメリハリのある引き上げが必要
――なるほど。不可能な企業に実現可能になる施策を聞くと、賃上げ促進税制の拡充や投資の助成が上位に並びました。これは今の制度では不十分だということでしょうか。
また、「低価格で受注する企業の市場からの退場促進」を望む声が多いことが目立ちます。これは正当な競争を望んでいるわけで、公正取引委員会の介入とか、官公庁の行政指導に期待しているということですか。
内田峻平さん おっしゃる通り、現状の制度では不十分と考えられます。病院からは「診療報酬改定」、介護事業者からは「介護報酬の増額」といった、業界でそれぞれの声が上がっています。
また、「低価格で受注する企業の市場からの退場促進」は、正当な価格競争を望む側面があり、正常な価格で勝負している企業の苛立ちを示すものだと思います。
行政には、税制、特に法人税や社会保険の負荷が大きいことを考慮してほしいと思われます。同時に、公正取引委員会には、発注者側の理不尽な単価や安値受注をあおるやり方があれば、積極的な指導が必要だと思います。
――最低賃金の引き上げは今後どうなるでしょうか。
内田峻平さん 最低賃金1500円の達成は不透明ですが、雇用確保を背景に時給は今後も上昇していくことは避けられません。ただし、地域や業種による差を認識したうえで、画一的でないメリハリのある引き上げの決定が必要かもしれません。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)
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