千代の富士との「絆」は三番稽古、「俺を大関に引っ張り上げてくれた」…元大関琴風の「演歌と土俵」
読売新聞 / 2025年1月14日 9時53分
元大関琴風の中山浩一さん(67)(元尾車親方、津市出身)が初優勝と大関昇進を決めた1981年は、千代の富士が大関に続いて横綱昇進も果たし、日本中に「ウルフ・フィーバー」を巻き起こした年でもある。所属部屋も一門もまったく異なる両雄だが、切っても切れない「稽古の絆」で、お互いの成長を支え合ったという。(三木修司)
予想外の出稽古にびっくり
千代の富士といえば、肩の脱臼癖を克服するために1日500回の腕立て伏せを自らに課し、筋肉の
その力士が当初、琴風に全く勝てなかった。十両だった76年7月の名古屋場所での初対戦から7連敗(5番は幕内取組)。琴風の重い当たりを受け、常に後手に回ったためだ。80年11月の九州場所での初勝利まで4年の歳月を要した。
時を同じくして、千代の富士が、琴風の所属する佐渡ヶ嶽部屋を訪ねてきた。師匠(佐渡ヶ嶽親方=元横綱琴桜)は「おおっ」と歓迎し、予想外の来訪に琴風は「ええっ」と驚いた。わけを聞くと、千代の富士は「出稽古に来たんだよ。オヤジ(師匠の九重親方=元横綱北の富士)が『行け!』って言うからよ」と、ぶっきらぼうに答えたという。
千代の富士貢
ちよのふじ・みつぐ=本名・秋元貢 1955年、北海道福島町生まれ。九重部屋から70年9月、初土俵。1メートル83、127キロ。優勝31度。89年(平成元年)9月に国民栄誉賞受賞。2016年、61歳で死去。
通算成績は6勝22敗
これが両雄の三番稽古の始まりだった。三番稽古とは、力量の似た者同士が土俵を占領し、20番、30番と繰り返す稽古のこと。結果、千代の富士が見いだした攻略法は、立ち合い直後に左
千代の富士は横綱に昇進後も、3年間は琴風の元に出稽古に通ったという。後年、スケールアップした千代の富士の技は「ウルフスペシャル」と呼ばれ、国技館を大いに沸かせた。相手の首根っこを右手で押さえながら、左からの上手投げで仕留める豪快な必殺技だ。
2人の幕内での通算成績は琴風の6勝22敗と、立場はすっかり逆転した。しかし、琴風にしてみれば、角界随一のスピードと踏み込みを備える千代の富士を土俵際に押し込むことは、他の力士が相手なら土俵外に押し出したに等しい。中山さんは「千代の富士さんが俺を大関に引っ張り上げてくれた」と感謝する。
ぼろぼろの体、眠りに導いてくれたメンデルスゾーン
相撲界には「3年先の稽古」という言葉がある。目先の勝負にこだわらず、先を見据えた稽古が大切だという戒めだ。「千代の富士さんの稽古が、まさにそれだった。稽古の貯金が、31という優勝回数にも生きたんだろうね」と話す。
千代の富士と稽古を終えた琴風の姿はいつもぼろぼろだった。「汗と砂で体はドロドロ、
そんな体の傷に染みたのはメンデルスゾーンのバイオリン協奏曲。「なぜか眠りに導かれた」そうだ。ところが「この曲しか知らないのに『琴風はクラシック音楽が趣味』なんて評判が流れて困った」。アンバランスな取り合わせが面白がられたのか、バイオリニストの辻久子さん、女優で歌手の中村メイコさんとテレビの対談番組に担ぎ出されたこともあった。
力士には心の癒やしが必要
「何を話したのか全然覚えていないんだよね」と笑う中山さんだが、一つだけ、はっきりと覚えている「真実」があるという。
「力士には心の癒やしが必要なんです。それだけ稽古は厳しかった。音楽には異次元の癒やしがあり、僕にとっては、一番のご褒美だった。スポーツ選手は誰しも同じだろうと思う。力をかき立てるような曲ではなく、心を静めてくれるような曲がいいんだなあ……」
琴風豪規
ことかぜ・こうき 1957年、津市栄町生まれ。中学2年の71年4月、元横綱琴桜(当時大関)に弟子入りし、同年7月、佐渡ヶ嶽部屋から初土俵を踏む。1メートル84、173キロ。大関在位は22場所、優勝2度。
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