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シリア新体制 暴力と決別し国民融和を図れ

読売新聞 / 2025年1月14日 5時0分

 半世紀にわたる恐怖政治からは解放されたものの、独裁と内戦で深まった社会の分断を克服するのは容易ではない。

 暫定政権はまずは暴力と決別し、国民の融和を図らなければならない。

 シリアでアサド政権が崩壊してから1か月が過ぎた。政権を倒した武装勢力は暫定政権を組織し、閣僚を任命するなど新体制作りを本格化させている。

 しかし、内戦は終結したとはいえ、北東部では米軍と連携するクルド人勢力と、トルコが支援する勢力の戦闘が続く。国全体の暴力停止と統合はなお見通せない。

 国民の間に残る相互不信が、統合を阻む要因となっている。

 シリア国民の多くはイスラム教徒のアラブ人だが、クルド人やキリスト教を信仰するアルメニア人もいる。国造りや新たな憲法制定にあたっては、民族、宗教などを理由とする差別禁止や、女性の権利尊重を基本に置くべきだ。

 政権崩壊後、かつて処刑された政治犯の集団埋葬地が各地で発見されるなど、独裁体制下の暗部が明らかになった。2011年からの内戦で行方不明になった人は約15万人という。アサド政権の非道ぶりに改めて慄然りつぜんとする。

 弾圧の責任追及を求める国民の声を踏まえ、暫定政権は「特別法廷」の設置を決めた。恐怖政治の蛮行を明らかにし、公正な裁きを下すことで、法の支配を確立することが求められる。

 内戦で荒廃した国土の復興には、国際社会の支援が不可欠である。だが、暫定政権の主体は、自爆攻撃や拉致を繰り返したイスラム過激派が源流の「シャーム解放機構(HTS)」で、米国などはテロ組織に指定している。

 米欧などはアサド政権に対し、テロ支援を理由に経済制裁を科してきた。国際社会は、HTSを主体とする暫定政権が平和的に統治を進められるかを慎重に見極めながら、制裁やテロ組織指定の解除を検討すべきだ。

 シリアの体制転換で、中東の力学は一変した。アサド政権を支えてきたロシアとイランの影響力が弱まり、両国からの穀物やエネルギーの供給も停止したという。このため、国民生活の困窮が懸念される状況にある。

 暫定政権の外相はサウジアラビアなどのアラブ諸国を訪ね、支援を要請している。平和を取り戻しつつあるシリアが生活不安などから混乱に逆戻りしないよう、関係国は、本格的な制裁解除とは別に緊急支援を始めるべきだろう。

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