帝劇の顔「レ・ミゼラブル」の38年…「人生への向き合い方変えてくれた」「初演時の精神伝えていく」
読売新聞 / 2025年1月16日 14時0分
レ・ミゼラブル 帝劇とともに<上>
建て替えのため2月末で閉館する帝国劇場(東京・有楽町)では、名作「レ・ミゼラブル」が2月7日まで上演中だ。帝劇の顔といえる「レミゼ」の魅力を3回にわたり特集する。初回は、初演(1987年)の出演者3人と音楽監督・山口琇也の座談会を送る。(小間井藍子)
――出演が決まった俳優は、学校形式でレミゼのあれこれを学ぶ「エコール レ・ミゼラブル」という講座を受けたそうですね。
島田歌穂 19世紀のフランスの時代背景を学んだ。時間割もありましたね。
岩崎宏美 ぐにゃぐにゃと体を柔らかくする体操をやりました。
山口琇也 声が出やすくなる効果があるんですよ。
――舞台を作るにあたり印象に残っていることは。
山口 ロンドン、ブロードウェーの次が日本。両地域でやったことを日本版に着地させる作業がたくさんありました。音楽も少し変えたし、舞台機構についても回り舞台の回転に合わせて音楽を当てはめていくのが大変でした。
岩崎
滝田栄 僕たちは閉め出されるので一体、中で何が起こっているんだろうと思っていましたね。
――滝田さんは当初、主人公ジャン・バルジャンとバルジャンを追う警官ジャベールの2役を担った。
滝田 その2役、キーはあまり変わらないんです。でも、肉体を使って表現するのは別次元の問題で。
山口 1人で2役をやるのは世界でも初めてだった。
滝田 のどもすぐに潰れた。医者に行ったら「人間の限界を超えています」と。それで「素晴らしい2役に挑戦できたのは貴重な体験でしたが、一つに絞って集中したい」とジョンに手紙を書いて兼務はなくしてもらった。
岩崎 のどのケアは私も苦労した。レミゼはプリンシパルもアンサンブルとして登場する場面がたくさんある。色々やった後に、ファンテーヌとして音域が広い「夢やぶれて」を歌うので、のどにポリープをよく作っていました。
島田 私も、初めてのどを潰した。自分はのどが強いと思って120%の力で歌っていたらプツッと出なくなってしまった。そうしたら宏美さんが「歌穂、行くよ!」とお医者さんに連れていってくれた。ありがたかったです。
――競争を勝ち抜いた出演者たちは実力派ぞろい。この舞台を経て有名になった人も多く、「スターを作るミュージカル」と言われる。
岩崎 シャンソンで活躍しているクミコさんがアンサンブルにいた。
滝田 藤田朋子さんも。当時、まっさらの新人で、みんなかわいがってましたね。
山口 今やベテランの宮川浩さんは大学在学中にオーディションに合格。「レミゼに就職した」と言ってました。
岩崎 私は人と競争する感覚があまりなかったのですが、レミゼのオーディションを受けてからはもうずっと競争。周りにできる人がいっぱいいますから。人生に対しての向き合い方を変えてくれた作品ですね。
――島田さんはエポニーヌ役が好評を博し、英国でエリザベス女王の前で名曲「オン・マイ・オウン」を歌うことになった。
島田 ロイヤル・バラエティーというチャリティーショーで、様々な国のキャストを女王陛下にお見せする企画。みんなでやるところは英語でしたが「オン・マイ・オウン」は日本語で歌った。人生の転機となる出来事でした。
――滝田さんはレミゼを卒業した2001年以降、舞台に立っていない。
滝田 「レミゼを超えるものはあるのだろうか」と思い、そこで世界に一番影響を与えたものは何かと考えたらブッダだろうと。出家しようと千秋楽翌日の一番早い飛行機でインドに行っちゃった。
島田 うそでしょう? 初めて知りました。
岩崎 奥様はびっくりされたのでは?
滝田 体がボロボロなのを知っていたので「好きにしたらいい」という感じでした。今は仏像を彫ったり、野菜や果物を作って近くの保育園に提供したりといった生活を送っています。バルジャンの役作りで農業をやったこともあるんだけど、それが今、生きています。
――一方で、山口さんは40年近くもレミゼに関わり続けている。
山口 俳優もスタッフもどんどん入れ替わっていくのを見てきた。ある意味孤独です。僕の使命は初演時に教えてもらったレミゼの精神みたいなものをどう伝えていくか。新しい俳優たちにとっても、彼らの人生における財産になればと思って続けています。
しまだ・かほ 女優、歌手。1982年、主演舞台「シンデレラ」でデビュー。2007年に読売演劇大賞優秀女優賞。
いわさき・ひろみ 歌手。「ロマンス」「シンデレラ・ハネムーン」「聖母たちのララバイ」などヒット曲多数。妹の良美も歌手。
やまぐち・ひでや ミュージカルの作曲、指揮、音楽監督などを務める。07年に読売演劇大賞優秀スタッフ賞。
たきた・さかえ 仏像彫刻家。劇団四季出身。1983年のNHK大河ドラマ「徳川家康」で主演。料理番組の司会も長く務めた。
(登場順)
帝劇の存在感、小説でも
初代帝劇(1911~64年)、2代目帝劇(66~2025年)ともに小説の舞台としても存在感を発揮してきた。三島由紀夫の「
「
舞台にまつわる8編の短編を収録したのが小川洋子「
さらに小川は2月から文芸誌「すばる」で帝劇そのものをテーマにした新作「劇場という名の星座」の連載を始める。第1回「ホタルさんへの手紙」は帝劇の観客と客席案内係とのささやかな交流を描いた物語。小川は「劇場は死者と生者、役者と観客が出会い、一つの世界をひととき旅する場所です。そのかけがえのなさを、小説によって描き出せたらと願っています」とコメントしている。
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