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デジタル教科書への全面移行、多くの校長は「強い懸念」…海外では「脱デジタル」へ転換も

読売新聞 / 2025年1月16日 14時0分

デジタル教科書を利用する上での懸念

 読売新聞が全国の小中学校長を対象に実施したアンケートで、多くの校長がデジタル教科書への全面移行に強い懸念を示した。授業への影響が出始めているなか、デジタル化を加速させようとする政府の動きに、各地の校長からは戸惑いの声が上がっている。

「遊びに使用」「通信トラブル」

 「生徒に包丁の危険性を教えずに、調理実習させているようなものだ」。関東地方にある公立中学校の校長は危機感を抱く。

 勤務校では、学習用端末を使って授業中にゲームをしたり、アイドルやアニメの画像を検索したりする生徒が後を絶たない。操作に慣れた生徒たちは、閲覧制限をかけても簡単にくぐり抜ける。この校長は「紙の教科書からデジタルに移行すると、生徒が学習に集中できなくなる恐れがある」と話す。

 アンケート結果では、こうした声が少なくなかった。デジタル教科書を利用する上での懸念を複数回答で尋ねたところ、「授業と関係ないネットやゲームの操作に集中」が36・4%を占めた。自由記述でも、「端末を遊びに使用するケースが増えている」(中部地方・中学校長)など対応に苦慮する現場の様子がうかがえた。

 懸念で最も多かったのは、「フリーズやページめくりの遅さなど通信トラブルが起きやすい」の59・9%。次いで「学習用端末の紛失や破損時の対応」が48・1%で、技術的な問題も浮き彫りになった。

 文部科学省は昨年9月、中央教育審議会に設置したワーキンググループ(作業部会)で、デジタル教科書の使用拡大に向けた議論を始めた。

 一方、アンケートでは、紙の教科書を配布せず、デジタル教科書に置き換えることへの学校現場の懸念が強く浮かび上がった。

 その背景には、学校現場で長年にわたって使われてきた紙の教科書への信頼感がある。近畿地方の小学校長は「見やすさでは紙の方が勝る」とする。四国地方の小学校長は「紙の本から得られる思考力の深まりは、かけがえのないものだ」との意見を寄せた。

 アンケートでは、デジタル教科書の使用が少ない実態も明らかになった。英語や算数・数学などでは、「あまり使われていない」「全く使われていない」と回答した校長の割合は合わせて29・0%だった。

「紙」再普及に予算

 海外では、教科書を含む教育現場のデジタル化を見直す動きが出ている。

 IT先進国のスウェーデンでは近年、国際調査で子どもの学力が落ち込み、学習への悪影響があるとして「脱デジタル」へと転換。政府は紙の教科書の再普及に多額の予算を投じている。ノーベル生理学・医学賞の選考機関でもあるカロリンスカ研究所は2023年4月の声明で、「印刷された教科書や教師の専門知識を通じた知識の習得に再び重点を置くべきだ」と訴えた。

 スウェーデンなどの政策転換は日本でも注目を集める。昨年末には東京都内で、北欧諸国の教育現場で進む脱デジタル化についてのセミナーが開かれ、研究者らが現状を報告した。

 小中学生への1人1台端末配備などを推進してきた経済産業省内でも、デジタル教科書には功罪があるとして、見直しが必要だとの声が出ている。

 慶応大の藤本和久教授(教育方法学)は「海外の事例を参考に、デジタル教科書の有効性や課題について議論を十分に尽くした上で、使い方を考えるべきだ」と指摘している。

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