鳥山明さんの言葉で「それだけのことなんだ」と思えた不登校、中1の秋に訪れた漫画家の転機
読売新聞 / 2025年1月20日 14時18分
漫画家・棚園正一さん 42
「いつからでもスタートできるし、何回もやり直すことができる。好きなことに打ち込んでほしいし、今を大切に、無理をする必要はない」
2024年10月、三重県亀山市の講演会で、小・中学校時代の9年間に不登校を繰り返した当時の心情などを保護者や子どもたち約80人に優しく語りかけた。
愛知県在住の漫画家だが、15年から始めた講演活動は、自治体やフリースクール、保護者の団体などに請われ、東海3県を中心にこれまでに100回以上を数える。
学校に行けなくなったのは小学1年の授業のある出来事だった。学芸会の台本の読み合わせについていけず、教壇の前で担任に「わかりません」と伝えると、頬をたたかれた。翌日以降、布団から出られなくなった。
家で自分で時間割を作って勉強したり、大好きだった絵を描いたりして過ごした。親には「明日は行くから」という言葉を何百回も伝えたが、行けない時間が長くなればなるほど、クラス替えや勉強の遅れなど行けない理由が増えていった。
新しい環境でやり直そうと、中学校は地元ではない学校に進学。しかし、最初のテストでほとんど点数が取れずに挫折感を感じ、また行けなくなった。
転機が訪れたのは中学1年の秋。母親が同級生という縁もあって実現した「ドラゴンボール」で知られる漫画家・鳥山明さん(24年死去)との出会いだった。
「学校に行かなくても漫画家になれますか」との問いに、「行かなくてもなれるとは思うけど、行った方が学校の話とか描けるから便利かもね」と返ってきた。
拍子抜けしたような気持ちだったが「それだけのことなんだ」とも感じた。不登校であることを気にせず話ができる大人の存在が初めてで「生まれてきて良かった」と心の底から思えた。
それでも学校には行けないままだったが、中学卒業後に行き着いたフリースクールでは、世代も家庭環境も様々な友人たちが一気に増えた。学校に行っていない人たちと時間を共有することで、いつの間にか普通でいられるようになっていた。
漫画家として独り立ちできるようになったのも過去の経験があったからだ。
漫画家を目指して18歳で上京したが、なかなかうまくいかず、1年間で地元に戻った。出版社に作品を持ち込むものの連載に至らない日々が続いたが、不登校の自身の経験を赤裸々に描いた「学校へ行けない僕と9人の先生」(15年)が初連載で初単行本化した。作品への反響は大きく、全国各地で講演するようになったのはこの頃からだ。21年には続編「学校へ行けなかった僕と9人の友だち」も出版した。
愛知の漫画家として「喜んでもらえる作品をずっと描き続けたい」と力を込める。一方で、「学校に行けなかった当時の気持ちを話すことで、不登校や引きこもりの子どもの気持ちを理解する一つのきっかけになれば」と、今後も講演活動に同じだけの情熱を傾けていくつもりだ。(小栗靖彦)
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