小学生の「ぼく」、自転車の鍵も携帯も見当たらない……童話のもととなったのは自身の子どもの体験から
読売新聞 / 2025年1月27日 15時20分
心の変化 息子の経験もとに
『今日にかぎって』樺島ざくろさん(53)
「日産 童話と絵本のグランプリ」で、前年度の佳作に続き、2023年度に童話の部で大賞を受賞した。「佳作の受賞作について、登場人物の心の動きが書けていることが評価されたので、『今日にかぎって』でも心が変化していく様子を丁寧に書こうと思いました」
主人公は、小学生の「ぼく」。夕方公園で遊んでいたが、自転車のかぎが見当たらない。仲良しの友達は、すでに帰ってしまった。携帯電話も家に忘れ、お母さんと連絡がとれない。今日にかぎって、悪いことが重なってしまうのだ。
もとになっているのは、自身の息子の経験。高校生の息子が小学5年生の時に、「財布も携帯も忘れた状態で、塾の帰りに電車を乗り間違えて、人に尋ねたりして、泣きながら2時間かけて家に帰ってきた」という。ただし、「小さな冒険」は「成長のきっかけにもなった」と受けとめた。
自転車を運んで、家に向かい始めた「ぼく」も、貴重な体験をする。道に迷っていた「ぼく」の前に、苦手なクラスメートが現れる。またまた「今日にかぎって」と思い始めたが、意外な展開に。「ぼく」の気持ちにも変化が表れる。「10歳ぐらいの子って、それまで無邪気だったのが、客観性を身につけ始めて、クルッて変わる。面白いですよね」
実生活では、大学生の娘2人と息子の母親。子育てが一段落して、「小学生の頃から、ずっと作家になりたかった」という夢を実現するために、「一度は本気を出さないと」と思い立った。
コロナ禍で公募向けに何作も書いたが、大きな賞には縁がなかった。今、「やっとという感じ」で、遅咲きの栄冠を手にし、「私は私の歩みでやるしかない」と自覚する。「一作でも、一文でも、一文字でも、新しい物語を残せたらと思っています」(BL出版、1650円)近藤孝
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