障害ある受刑者に製品作りの「練習」やビジネスマナー習得の機会…社会復帰を後押し、再犯防ぐ試み
読売新聞 / 2025年1月20日 15時0分
障害のある受刑者らに対し、刑務所が福祉団体などと連携して社会復帰を支援する試みが進んでいる。福祉の専門家らが障害の特性に応じてアドバイスするなどきめ細かに処遇し、受刑態度の改善や「自己肯定感」の向上に効果もみられるという。法務省は6月の「拘禁刑」導入を見据え、全国の刑務所に広げることを検討している。(山下真範、伊藤孝則)
和太鼓で協調性育む
昨年12月3日、長崎県諫早市の長崎刑務所では、知的障害のある受刑者らが、花火の持ち手を作る「練習」を黙々とこなしていた。
同刑務所では2022年6月から、知的障害やその疑いがあり、窃盗など比較的刑期の短い受刑者を対象に、特別な処遇を行うモデル事業を実施している。特徴の一つは、刑務作業に数か月の練習期間を設けていることだ。
知的障害のある受刑者は製品を作る通常の刑務作業についていけず、折り紙など単純作業に回されることが少なくない。そこで、数か月の練習を経て刑務作業に移行させ、社会に復帰した後に役立つ技能を着実に身につけられるようにした。
ビジネスマナーの習得や、和太鼓練習で協調性を育む取り組みも実施している。障害者の就労支援などに取り組む同市の社会福祉法人「
2割に障害
障害のある受刑者の割合は年々高まっている。法務省によると、23年に刑務所に入った受刑者1万4085人のうち、知的障害や発達障害などを持つ受刑者は20%の2877人。14年の13%から7ポイントも上昇していた。
一方、22年に出所した受刑者のうち、罪を犯して2年以内に再び入所した人は全体の13%だったが、知的障害を持つ人に限ると26%(速報値)に上っていた。安定した職に就くことが一般の受刑者より難しく、生活苦などから再犯に及ぶケースが目立つとされる。
こうした中、長崎刑務所で始まったモデル事業には効果も確認されている。同省が昨年12月に発表した中間報告によると、22年6月~昨年9月に出所した28人のうち、受刑態度が良く、仮釈放されたのは19人(68%)で再犯者の全体平均(51%)より高かった。
このほか、出所者らの個別面接では、「これまであまり人に相談できなかったが、できるようになった」「自分が一歩引いたり、相手を尊重するようになった」など、主体性や自己肯定感の高まりを感じさせる反応もみられたという。
自治体と協定
他の刑務所でもモデル事業がスタートしている。
大阪刑務所(堺市)では昨年11月、発達障害やその可能性のある受刑者を対象に事業を始めた。精神保健福祉士など専門家も含めたチームで受刑者の治療や支援などを行う。
出所後の支援も見据え、同18日には、大阪府や大阪市、堺市、保護観察所などと協定を締結。事業の対象者が出所した後、各種支援につなげるための連携や協力を確認した。情報共有を深め、自治体側は支援制度を出所者に案内するなどの対応にあたるという。
このほか、札幌刑務所(札幌市)も昨年3月から近隣の病院などと連携し、障害の特性に応じた処遇を行っている。
今年6月には拘禁刑が導入され、更生に必要な指導を柔軟に組み合わせた処遇が可能になる。法務省は事業の効果を検証し、全国での実施を目指す考えで、同省幹部は「受刑者の特性に応じた処遇ができるよう体制作りを進めたい」と話す。
モデル事業について、太田達也・慶応大教授(刑事政策)は「刑務所内で福祉的な支援や配慮が進む一歩となり、入所者の能力開発や育成につながるだろう」と評価。その上で「出所後の生活をどう定着させるか、現状では支援者や民間団体などに全面的に頼らざるを得ない。モデル事業が福祉と司法が並走する形を目指しているように、出所後も同様の体制づくりが期待される」と話している。
◆拘禁刑=懲役と禁錮の両刑を一元化し、「拘禁刑」を創設する改正刑法が6月1日に施行される。受刑者の「懲らしめ」から「立ち直り」に重点が置かれ、刑務作業は義務ではなくなり、薬物依存や性犯罪の矯正プログラム実施など、社会復帰に向けて個々の特性に応じた処遇が可能になる。
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