聴覚障害女児の事故死による逸失利益、全労働者の平均と同水準と判断…大阪高裁判決
読売新聞 / 2025年1月20日 20時47分
聴覚障害のある女児が重機にはねられて死亡した事故を巡り、将来得られるはずの収入「逸失利益」の算定基準が争われた訴訟の控訴審判決で、大阪高裁(徳岡由美子裁判長)は20日、障害を理由に全労働者の平均年収の85%とした1審・大阪地裁判決を変更し、全労働者の平均と同水準と判断した。健常者と同等の逸失利益を認めた判決は異例。
女児は大阪府立生野聴覚支援学校小学部5年の井出
23年2月の1審判決は、事故当時の聴覚障害者の平均年収が全労働者の約7割にとどまり、今後、上昇は見込まれるものの、「障害が労働能力を制限することは否定できない」と判断。遺族が控訴していた。
徳岡裁判長は20日の判決で、逸失利益を減額するのは「顕著な妨げになる理由が存在する場合に限られる」との判断基準を示した。
その上で、井出さんは補聴器を使えば意思疎通でき、障害を補うデジタル機器などの技術革新も見込まれるとして、「健常者と同じ条件や環境で同等に働くことが十分に可能だった」と指摘。重機の運転手らが遺族に支払う賠償金を1審の約3700万円から約4300万円に増額した。
判決後、井出さんの両親が記者会見した。井出さんは、同学年の健常児と同じ程度の読み書きや計算能力を習得。「補聴器の人はみんな友達やねん」と街中で積極的に話しかけていたという。
20日の判決は、こうしたコミュニケーション能力の高さにも言及した。母親のさつ美さんは「安優香の11年の努力が認められた」と涙を流し、「全ての障害者が生きやすい社会が娘の望みだと思う」と話した。
立命館大の吉村良一名誉教授(民法)は「過去の判決には『障害=労働能力の低さ』という裁判所の思いが感じられた。今回の判決は減額を例外としており、画期的だ。障害者を取り巻く状況も正確に捉えていて同種訴訟にも影響を与えるのではないか」と語った。
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