トランプ氏就任 「米国第一」は何をもたらすか
読売新聞 / 2025年1月22日 5時0分
★突破力を難題の解決に生かせ★
「独裁者」になると公言してはばからず、「米国第一」のためなら友好国であっても力でねじ伏せようとする。異形の米国大統領が、4年ぶりに戻ってきた。
米国自身が主導してきた国際秩序や民主主義を不安定化させることになるのか。不確実性に満ちた時代が再び幕を開けた。
バイデン路線を転換
ドナルド・トランプ氏が第47代米大統領に就任した。
厳しい寒さのため、就任式の会場は、連邦議会議事堂の外から40年ぶりに屋内に変更された。招待客だけが見守る中での就任は、トランプ氏に忠誠を誓うイエスマンで固められた内向きな2期目政権を象徴するかのようである。
就任演説では「米国第一に考える」と改めて強調した。「米国は世界に搾取されている」という独自の世界観に基づき、バイデン政権の国際協調路線から孤立主義への転換を鮮明にしたといえる。
不法移民対策としてメキシコ国境地帯に「国家非常事態」を宣言し、米軍を派遣する方針を示した。州兵が担うべき国内の任務に、軍隊を動員するのは極めて異例だ。
外国へのエネルギー依存を減らすため、国内で石油や天然ガスを増産し、温暖化対策のための国際的枠組み「パリ協定」から再離脱することを決めた。世界的な環境対策の取り組みが後退するのは避けられないだろう。
経済では「外国に課税する」と述べ、「外国歳入庁」の新設を表明した。演説後、メキシコ、カナダからの輸入品に25%の関税を課す考えも改めて示した。
両国からの不法移民や違法薬物の流入を問題視し、圧力をかける狙いがあるとみられる。
しかし、関税を武器に保護主義的な政策を進めても十分な雇用を生み出さず、かえってインフレを再燃させる恐れがある。「米国を再び偉大にする」という公約実現の障害になるのではないか。
大富豪ら重用の影響は
「米国第一」と並び、トランプ氏を突き動かしているとみられるのが「報復」の執念である。
2020年大統領選での再選失敗や、刑事事件で有罪評決を受けたのは、民主党政権や国家機関による「政敵迫害」だとの見方を示してきた。司法当局のあり方を見直し、起業家のイーロン・マスク氏に官僚機構改革を担わせる。
だが、トランプ氏の大統領への返り咲きを支えたのは、物価高に悩む庶民が中心である。特定の大富豪らの重用は、支持者の期待を裏切ることにならないか。
また、就任初日は「独裁者」宣言通り、議会承認を必要としない大統領令を連発し、4年前の連邦議会襲撃事件に関与した支持者らに恩赦を与えた。
大統領令は歴代大統領もしばしば発出してきたとはいえ、乱用すれば法の支配をゆがめてしまう。上下両院は共和党が多数を占める。有利な状況を生かした民主的な政策遂行を心がけてほしい。
外交を巡り、トランプ氏は型破りの発言で世界を
軍事力や経済制裁で他国を
ただ、グリーンランドやパナマで中国が影響力を強め、米国や他国の権益を脅かしているのもまた事実である。
トランプ氏の発想や物言いは乱暴で危ういが、より重要な「ディール」(取引)のための駆け引きとしてやっている可能性も排除できない。真意を注意深く探り、冷静に対応する必要がある。
実際、パレスチナ自治区ガザの戦争を巡っては、停戦に応じなければ「地獄」が訪れるというトランプ氏の脅しが、イスラム主義組織ハマスとイスラエル双方に合意を強く促す結果となった。
日米安定の道を探れ
一方、ウクライナ戦争の停戦には半年が必要だと認めたのは現実的である。ロシアのプーチン大統領ら強権指導者との直接交渉に頼った事態打開には限界がある。
トランプ氏の予測困難性や突破力が、難題を動かす方向に活用されれば、好結果を生むこともあろう。ただしそのためには、日本や欧州などの民主主義陣営が結束し、米国を国際協調の枠組みにつなぎとめる努力が欠かせない。
岩屋外相が日本の外相として初めて米大統領就任式に出席した。石破首相は2月の訪米とトランプ氏との会談を実現させ、日米関係の安定につなげるべきだ。
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