今、ミドルシニアの転職がアツイ 採用意欲高い業界はここだ!/パーソルキャリア・石井宏司さん
J-CASTニュース / 2025年1月22日 18時50分
ミドルシニアの転職先は(写真はイメージ)
引く手あまたの若手と異なり、40~60代のミドルシニアの転職は厳しいといわれる。
そんななか、人材総合サービスのパーソルキャリアが運営する転職サービス「doda」(デューダ)が2024年12月19日に発表した「2025年 ミドルシニアの転職予測レポート」によると、2025年は転職市場で「ミドルシニア元年」になるほど企業の採用意欲が高まっている。
どういう業界で、どんなスキルを持つ人材が求められているのか。パーソルキャリアの石井宏司さんに話を聞いた。
脱炭素経営を求められる業界が、専門スキル持つ人材を募集
レポートによると、転職サービス「doda」におけるミドルシニア(40代~60代)の新規登録数は、2023年度は2019年度と比べて約140%も増加。2025年以降も転職希望者が増える傾向が続くと予想する。
理由としては、特に団塊ジュニア(1971年~74年生れ)を中心とした50代の転職活動の活発化があげられる。
この世代はバブル崩壊後に社会人となり、大幅な給与増を経験していない。晩婚化によって育児・教育の出費を抱えているうえ、役職定年による管理職手当の削減など定年前の不安に直面、自分の経験やスキルを活用できる企業に転職したがっている。
一方、企業側も採用ターゲットの中心である20代後半~30代が、昨今の賃上げなどにより採用難易度が高まったこともあり、豊富な知識と経験を持つミドルシニア層に的を絞り始めた。
2025年は、転職市場における「ミドルシニア元年」になるというわけだ。
では、ミドルシニアの採用意欲が特に高まる領域はどこか。まず、カーボンニュートラルと経済成長の両立を目指す取り組みGX(Green Transformation=グリーン・トランスフォーメーション)の分野がある【図表】。
2025年以降は、製造業系の大企業だけでなく、取引先の中小企業でも脱炭素対応が求められる。CO2排出量の見える化や、脱炭素の経営計画への組み込みなどを現場で推進する人材が必要になる。
ただ、現時点で、脱炭素の知識や経験を兼ね備えた人材は少ない。そこで、GX関連の業務経験がなくとも、経理・会計、事業企画・経営企画の経験がある人材は、経営サポートの面で需要が高い。GX関連の講座や検定受講などリスキリングをすればGX人材としての活躍が可能だ。
もう1つは、大手金融機関と業務提携を進める通信業や小売業、IT業界などで、金融業界出身者の採用ニーズが高まっている。具体的には、銀行のポイントを携帯料金の支払いやコンビニでの買い物に利用できるようなサービスの提供などが挙げられる。こうした動きは今後、ヘルスケア領域など幅広い業種で進む見込みだ。
即戦力が期待された2人のケースをみると...
J‐CASTニュースBiz編集部は、報告をまとめたパーソルキャリア・ミドルシニア事業企画部ゼネラルマネジャーの石井宏司(いしい・こうじ)さんに話を聞いた。
――ミドルシニアの採用意欲が高まる業界として、第一に脱炭素社会を目指す「GXリーグ」に参加している企業群などを挙げていますが、その理由をもう少し具体的に説明してください。
石井宏司さん 脱炭素、GXといった領域では、「これから脱炭素に取り組まないといけない」「取引先の大企業から徐々に要請が来ている」といった中小企業で、「大企業で脱炭素を先進的にやってきた人材や、脱炭素を実行する手順を知っている人を採用したい」というニーズが増えていると感じます。
また、脱炭素以外の領域でも、中小企業やある程度社員が多くなってきた成長企業は、徐々に間接部門や社内の制度やルールを整えていかないといけなくなってきています。さらに、「大企業と取引を拡大したい」という際に大企業に人脈がある人を採用し、アカウントマネジャーにする企業も出てきています。
氷河期世代には、配下に部下が入社してこない中で、さまざまな改革や体制整備、デジタル化を支えてきた人が一定数います。こういったノウハウを持ったミドルシニアたちが実は貴重な人材である、ということに気づきだした企業は日々増えていると思います。
――実際に転職にいたった人にはどんなケースがあるのでしょうか。
石井宏司さん 2つご紹介します。
過去に数回転職し、IR業務(投資家向け広報)の経験や、土木系企業でサステナビリティ(持続可能性)推進事業に携わった40代後半のAさん。中規模の化学メーカーから、大手化学メーカーのサステナ領域の経営企画ポジションで転職決定した事例です。
Aさんは、前職時代にサステナ推進事業を任され、立ち上げに奮闘した業務経験があったこと、IR知識があり投資家目線を持ちながら経営企画にもかかわれることを期待されたことが大きな評価ポイントでした。
中規模企業から大企業への転職のため、一時的に年収が下がる形でしたが、前職では経験できない規模感の業務ができる点に魅力を感じ、納得のいく形で転職に至りました。
――もう1人はどんなケースですか。
石井宏司さん 50代のBさん。製造業の研究開発職から、エネルギー系企業の脱炭素エネルギー開発プロジェクト推進のポジションに転職しました。
Bさんは、管理職経験や海外赴任経験、さらに専門性の高い領域の開発で技術力に長けていたこともあり、企業からは即戦力として期待され、前職の1000万円からさらに年収がアップしました。
なお、GX領域の即戦力はとても希少なため、このように提示年収を引き上げたり、福利厚生を手厚くしたりすることで採用力を高める企業の動きも見られています。
GXの知識ゼロでも、使えるスキルと推進力があれば年収アップ
――転職にあたり、GX関係の講座や検定の受講など、リスキリングの必要性を強調していますね。ここでも実際の事例を紹介してください。
石井宏司さん 現状はまだGX関連のリスキリングサービスや検定が登場し始めた段階であり、完全未経験からGX関係の講座を受講するなどして転職につながったケースは少ないです。しかし、未経験ながら経営企画や事業企画、管理職経験などが評価され、転職にいたったケースがあります。
成長フェーズにある再生エネルギー系の企業が、脱炭素領域も含めた中期経営計画の策定や新規事業企画など、前のめりに行動できる人材を探していました。
そこに、元経営企画職だった50代のCさんがマッチング。GXの専門知識はなかったものの、10年以上の知見経営や既存社員にはない推進力があることなどが評価され、転職にいたりました。
スキルや経験の即戦力性から、年収は600万円から数十万円アップして転職決定しています。
――なるほど。かならずしもGXの知識がなくて、前職でつちかったスキルとバイタリティーがあれば年収アップも期待できるわけですね。
石井宏司さん GXというと新しい領域のようにも感じますが、実は経験を横展開できる可能性に気付ける、良い例だと思います。
未経験領域への転職は通常年収が下がることが多いですが、こうした経験やポータブルスキルがあると年収交渉のしやすさにもつながってくるでしょう。
――リポートでは、ほかに採用意欲が高まる業界として、金融業界と小売、通信、IT業界などとのコラボ関連を取りあげていますね。具体的にはどういうケースがあるのでしょうか。
石井宏司さん 金融業界とIT業界でいうと、金融業界では引き続き大型のIT投資、システム投資が想定されています。
金融システム経験があるプロジェクトマネジャーやセキュリティーに強いエキスパートなどは、年齢によらず金融業のIT部門がスカウトしたり、逆に金融業のIT部門の人材をSIerがアカウントマネジャーやプロジェクトマネジャーとしてスカウトしたりするという動きが見られます。
また近年、金融業界では金融系のスタートアップ投資を強化しており、大手金融系の資本が入っているスタートアップには大手から金融商品のエキスパートや、DX関連の仕事をしてきたIT人材、金融まわりのセキュリティーや規制、金融庁対応に長けたエキスパートなどがスカウトされる傾向が見られます。
全体的にエキスパートの採用ニーズがあり、経験値の高いミドルシニア人材がマッチしている状況です。今後もその動きがより顕著になってくると予想しています。
「自分がキャリアを歩んでいくための学びの旅」へ出よう
――なるほど。若手と違ってミドルシニアの転職には困難がつきまとうと思いますが、どんな心がまえ、覚悟が大切なのか、アドバイスをお願いします。
石井宏司さん まず大事なことは「何のために転職という一大事に踏み切るのか」、自分の転職軸を明確に納得いく形で言語化していくことです。
これは実は転職最中にも変わってきたりしますので、転職活動のすべてを「自分がキャリアを歩んでいくための学びの旅」と捉えていく心構えが重要になってくるでしょう。
なかなか応募しても受からない、面接で厳しいことを言われる、内定をもらえないなど、その一つひとつを学びの機会をとらえて前に進めるかどうかが重要な姿勢となります。
そういった中で、自分が本当に活躍できる、必要とされるご縁を見つけていくことがその先のキャリアが花開くためには重要な「先行投資の時間」となることでしょう。
――アピールの仕方には何かコツがありますか。
石井宏司さん 面接ではアピールすることよりも、ベテランや経験者として相手と対峙し、対話すること。仕事のすり合わせやその顧客が困っていることをつかみ、そのことを自分の経験値で解決できそうだ、解決したいという成熟した姿勢が伝わることが大事になります。
冷静に落ち着いて、相手と会話しすり合わせる。「落としどころを前に進めるのに、こういうことができるのでは」と提案する姿が、相手企業からの信頼につながることでしょう。
ベテランや経験者が解く課題は、たいてい組織の中で利害関係が入り組んでいたり、矛盾があったり、歴史的な分断があったり、人間関係的に難しい問題であることが多いです。
そういった組織内部の人が匙(さじ)を投げてきた、難易度の高い課題に向き合う、解決していこうとする姿が「この人にわが社の難しい問題を任せてみたい!」という先方の期待を引き出すのです。
「うちにあなたが来てくれてよかった!」と感謝される場を見つけよう
――ベテランらしい風格、貫録で臨むわけですね。転職を志すミドルシニアへのエールをお願いします。
石井宏司さん これからミドルシニアの中核は、氷河期世代になってきます。社会人になってから報われてこなかったような気持ちになったことのある人も多いのではないでしょうか。
そんな中で頑張ってきたのに、年金受給年齢は引き上げ傾向にあり、人生100年、75歳まで働かないといけないという時代。「あと20年以上も働かないといけないのか」と、将来不安を覚える人もいることでしょう。
ただ、逆に言えば、まだまだ時間がある。日本国内に目を向ければ、少子高齢化で労働力が不足している。時間をかけて自分が活躍できる場所を探せば、これまでの経験や知識、人脈などが生きる場所、「うちの会社に〇〇さんが来てくれてよかった!」と感謝される場を見つけることができると思います。
知識や経験が足りなければ、学びを増やせばいい。自分のビジネスキャリアの第二幕、第三幕をじっくりと切り開いていけばいいと思います。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)
【プロフィール】
石井 宏司(いしい・こうじ)
パーソルキャリア・ミドルシニア事業企画部ゼネラルマネジャー
2023年パーソルキャリアに中途入社。同年10月、ミドルシニア事業企画部のゼネラルマネジャー就任。就労人口が平均50歳を超える2030年を見据え、社内におけるミドルシニアのキャリア支援体制の強化を推進するほか、ミドルシニアが活躍できる市場の開発にも取り組む。
自社の事例やデータに基づく転職市場動向の解説に加え、大手コンサル会社での勤務経験を活かし、アカデミックな視点から多角的な分析や課題の特定を得意とする、ミドルシニアの労働市場全般におけるスペシャリスト。特に脱炭素領域やメーカーの技術職、ミドルバック系職種の市場動向分析に強みを持つ。
この記事に関連するニュース
-
日本No.1ヘッドハンターが教える、強いキャリアのつくり方 第5回 「社会課題解決」×「ハイキャリア」を実現する方法
マイナビニュース / 2025年1月21日 16時0分
-
転職サービス「doda」、脱炭素領域への転職セミナー開催レポート
PR TIMES / 2025年1月17日 13時40分
-
平均年収691万円! Web3業界に転職する20、30代ハイキャリア層の実態とは?
ITmedia ビジネスオンライン / 2025年1月13日 18時35分
-
住宅業界の未来を支える、新しい働き方と人材活用サービスをリリース
PR TIMES / 2025年1月11日 17時45分
-
経済産業省主催のGX人材育成研修会に登壇
PR TIMES / 2025年1月6日 13時45分
ランキング
-
1【独自】斎藤知事の『パワハラを認定へ』兵庫県の百条委員会が調整 業務時間外の多数チャット、公用車から降ろされ叱責など
MBSニュース / 2025年1月22日 17時55分
-
2「一家全員の極刑を望む」すすきのホテル殺人、被害者遺族の心情明らかに 父親4回目裁判で
STVニュース北海道 / 2025年1月22日 16時6分
-
3入試当日朝に車にはねられ意識不明の受験生 約8時間後に死亡を確認 福島県
福島中央テレビニュース / 2025年1月22日 17時35分
-
4週間天気予報 来週前半は低気圧・前線が通過 全国的に雨や雪の予想
ウェザーニュース / 2025年1月22日 15時0分
-
5バスの中でなにが…下校中の高校生を突然足蹴り・殴打 逮捕の男「わからない」って…札幌市西区
STVニュース北海道 / 2025年1月22日 13時21分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください