中学で不登校だった男性、今や世の中を元気にする「大喜利専門家」…企業など6000人指導
読売新聞 / 2025年1月26日 13時9分
「こんな戦隊ヒーローは嫌だ」。昨年12月、企業の人事担当者らを対象に行われた大喜利のオンライン講習会。出されたお題について、5人の参加者は頭をひねりながら、手元のスマートフォンに自分なりの回答を打ち込んでいく。
最初の頃は、「全員が黄色」「いつも怪人が勝つ」といった無難なものが目立っていたが、回答を重ねていくうちに「おもちゃメーカーとズブズブの関係」「高額ギャラを要求」など、周りの参加者も思わずクスッと笑ってしまう回答も飛び出すようになった。
「無理に人を笑わせようとする必要はないですよ」と、参加者にアドバイスを送っていたのは、講師を務めた山本ノブヒロさん(44)。ふと思いついた何げないことや視点を、おいしい食事を薦めるくらいの感覚で言ってみるのが面白い回答を引き出すコツだという。
山本さんは、コミュニケーション能力や柔軟な発想力の向上を目的に、大喜利を活用した研修や講習を2019年から行っている。これまでに約70の企業や官公庁など、のべ約6000人が参加。「大喜利という言葉遊びを楽しむことで、組織内の相互理解や愛着も深まる」と力を込める。
今の活動は、光が当たらなかった、自身の中学生時代の苦い経験が原動力になっている。
口癖「あなたはどう思う?」疎まれる
大喜利専門家として研修や講座を行う山本さんは、自然豊かな山口県萩市で生まれ育った。子どもの頃にのめり込んだのが昆虫採集。同じ場所で採ったチョウやカブトムシでも、羽や角の特徴が違うことが魅力だった。
同様に、家族や友人らの考え方の「違い」に対する関心も高かった。「俺はこう思うけど、あなたはどう思う?」が中学生時代の口癖。そんな性格が疎まれ、次第に同級生から無視されるようになり、中1の冬から不登校になった。
昼夜逆転の生活の中、心の支えは「オールナイトニッポン」などの深夜のラジオ番組。特に決められたお題に対し、「ハガキ職人」と呼ばれるリスナーの面白い投稿が紹介されるコーナーが好きだった。お題は共通でも、考えが違えば同じ回答になるとは限らない。お題はまさに「あなたはどう思う?」を投げかけている気がした。
中学校から促されて渋々登校した時のこと。教室で先生から話題を振られた。何を答えたかは全く覚えていないが、「ハガキ職人ならどう答えるか」を意識して答えた。すると、自分を無視していた同級生がクスリと笑ってくれた。
「あなたはどう思う?」。正解は一つではなく、色々な答えがあっていいという考えを今も大切にする。
上司の何気ない一言が転機に
山本さんは、立命館大大学院を修了後の2006年に上京し、ITやコンサルティングの企業などで働いた。
アマチュアとして出た大喜利大会で、プロのお笑い芸人と競い合うのは刺激的だった。それでもプロを目指さなかったのは、他人の回答も含めて大喜利を楽しみたかったから。大喜利は人と競い合うよりも、人と仲良くなる手段として魅力を感じていた。
当時働いていたウェブメディア企業の役員との会話が、大喜利との向き合い方を変える転機に。役員から「大喜利を活用して仕事にできないか?」と何げなく言われた。その場では笑い話で終わったが、帰り道、食事中、風呂の中でも真剣に考えた。
心の支えだった大喜利は、プロのお笑い芸人だけのものではなく、一般人でも楽しみながら、学びや発見につなげられるのではないか。そのノウハウ作りこそ、自分が大喜利を通じてやりたいことなんだと確信した。
青山学院大の社会人向け講座でワークショップの手法を学んだ。そして18年、会社を辞めて大喜利専門家に転身した。役員は「俺が変なことを言ったから、大喜利の先生になってしまったのか」と焦っていたが、背中を押してくれた恩人として、今も感謝している。
コロナ禍も乗り越える
2018年に東京・新宿の貸会議室を拠点に大喜利教室を始めた山本ノブヒロさん(44)。活動がテレビ番組などで紹介されると、企業の役員や人事担当者が見学に訪れ、研修や講座の依頼が舞い込み始めた。
「営業社員の提案力を向上させたい」「発想力を高めてサービスに生かしたい」――。研修の目的や参加者の属性を踏まえながら、大喜利で答えてもらうお題を決める。誰もが知りつつ、柔軟な発想につながるお題を選ぶのが腕の見せ所だ。
昨年3月、札幌市役所で広報担当職員12人に行った研修では「白いご飯を魅力的にする方法」などのお題を振った。「1週間パンだけで過ごす」「自分で水田をつくる」といったクスッと笑える回答が飛び交った。
企業相手の仕事が増えた20年2月には、自身の会社「エヌアライアンス」を設立。ほぼ同時期に新型コロナウイルスの流行が始まり、予定していた研修は軒並み中止に。スマートフォンの回答フォームを使ったオンライン研修の手法を確立してピンチを乗り切った。
会社名の冒頭の「N」には、自身の名前とNipponの頭文字、そしてアンケート調査などで人数を示す記号の意味を込めた。「ノブさんと同盟(アライアンス)を組み、ニッポンを元気にする人数を増やしましょう」
「お前みたいなヤツでも大丈夫」
大喜利専門家の山本さんが研修や講座を担当した企業や自治体は、約70団体、のべ約6000人にのぼる。
お題に対してボケて、周りの回答をそれぞれで楽しむ。研修で発想力や対話力が鍛えられた成果なのか、参加者には生物多様性や宇宙産業といった分野で、国内外の新規事業創出に貢献している社員もいるという。
企業での研修後には感想が寄せられる。「今までは言えなかった、自分の意見やわがままを言いやすくなった」「管理職として一人ひとりに個性的な視点や感性があると分かった」――。こうした声は励みになり、大喜利の魅力をもっと多くの人に届けたいと思う。
自分が考えていることを人に伝えることは、余計なことではない。人が考えていることを知ることも発見になる。「意外と大丈夫やで。お前みたいなやつでも、生きやすくなるよ」。周囲とのコミュニケーションに苦しみ、部屋にこもっていた中学生の自分にも、今ならそう伝えられる気がする。
「あなたはどう思う?」の精神で、これからも日本を、そして世界を面白くしていく。
(文と写真・柳沼晃太朗)
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