マンションの宅配ボックス、詐欺グループの受け渡し場所に…「管理人不在」「防犯カメラなし」リスト化か
読売新聞 / 2025年1月25日 15時21分
福岡県警に摘発された特殊詐欺グループが、だまし取った金の受け渡しに使っていたのは、関係のないマンションの「宅配ボックス」だった。宅配便の利用増加で急速に普及する「保管スペース」が悪用される背景には、出入り自由で防犯態勢が緩いなどの事情があった。他に同様の事例も確認されており、県警は「防犯カメラの設置など対策が必要だ」と警戒強化を呼びかけている。(丸山滉一)
ダイヤル式
近年、各世帯の郵便受けとは別に、住人不在の場合に使う共有の宅配ボックスが設置されている集合住宅が増えた。複数の種類があり、「ダイヤル式」は〈1〉配達員が郵便物を入れて施錠〈2〉任意の暗証番号を設定して不在連絡票に記載し、配達先の郵便受けに残す〈3〉住人が暗証番号を入力して開錠――の手順で利用されている。捜査関係者によると、グループが悪用したのがダイヤル式のボックスだ。
捜査関係者によると、詐欺容疑で逮捕された福岡県太宰府市の無職の男(54)、東京都練馬区の無職の男(44)の両容疑者は氏名不詳者らと共謀。昨年11月、福岡県内の80歳代男女に電話し、息子になりすまして「株を買ったお金の穴埋めをしないといけない」などと言い、計350万円を詐取したとされる。
事件では、副業サイトから闇バイトに応募した福岡県太宰府市の男が女性から100万円を受け取り、福岡市中央区のマンションの宅配ボックスに入れて施錠。暗証番号を設定して秘匿性の高い通信アプリ「シグナル」で指示役に伝えた。
数時間後、東京都練馬区の男がマンションを訪れ、指示役から届いた暗証番号を入力して開錠し、現金を持ち去った。5日後に男性から詐取した250万円も同様に回収していた。計350万円は東京都練馬区の男が空路で東京に運んだとみられる。両容疑者に面識はなかった。
管理人不在
この宅配ボックスは玄関のオートロックの外側にあり、配達員やチラシの配布者らが誰でも入ることができた。管理人はおらず、防犯カメラも設置されていなかったという。詐欺グループは同じような条件のマンションを下見してリスト化していたとみられる。
東京都練馬区の男は今月20日、県内の別の80歳代女性から詐取した200万円を昨年9月にボックスから回収した組織犯罪処罰法違反(犯罪収益隠匿)の疑いで再逮捕された。
男が回収に使ったとみられるボックスは福岡市内に5か所以上あり、同様の手口が同市などで同9~11月に15件(被害総額約3000万円)確認された。同容疑者はこの間に計9回、空路で県内を訪れており、県警が捜査を続けている。
非対面で無料
捜査関係者によると、詐取金の受け渡しはかつて、公衆トイレで対面や隣り合う個室の隙間からやりとりする方法が多かったが、受け渡し役が互いの顔を知ったり、連絡を取り合ったりすると、グループ全体に捜査が及ぶリスクが高まる。
非対面では駅などのコインロッカーを使う方法も多かったが、防犯カメラの設置が進んで摘発されやすくなった。そこで、カメラが設置されていないことも多く、暗証番号の設定で確実に回収でき、さらに無料で利用できる宅配ボックスに目を付けたとみられる。
今回のように受け子と回収役が受け渡しに使う以外にも、被害者に空き部屋の住所を伝えて金を郵送させ、「住人不在」と誤信した配達員がボックスに入れた後、郵便受けから不在連絡票を抜き取って開錠する手口も多くみられるという。
この手口では、福岡県警が昨年6月、東京都のマンションのボックスから詐取金を受け取ろうとした詐欺未遂容疑で埼玉県の女子高校生を現行犯逮捕した。警視庁も今月、闇バイトに応募した中学生らにボックスから詐取金を回収するよう指示した詐欺容疑で同県の男を逮捕している。
身近で犯行 不審人物注意…宅配便急増
インターネット通販の定着で宅配数は急増している。
国土交通省によると、2023年度の国内の宅配便取扱個数は50億個を超え、この20年間で約1・8倍となった。同省の抽出調査で再配達は約1割を占め、人手不足の運送業界で長時間労働に拍車がかかるなか、再配達しなくて済む宅配ボックスの普及が進む。
警備会社「綜合警備保障(ALSOK)」(東京)によると、ボックスには「電子式」もあり、住人がカードキーを近づけるなどして開錠するため安全性が高い。ただ、導入コストは200万円程度と、ダイヤル式の2倍近くかかる。
福岡県警は「ボックス周辺にカメラを設置することで一定の防犯効果が期待できる」と指摘。「犯罪グループは巧妙に市民生活に紛れ込み、身近な場所で犯行に及んでいる。ボックスや郵便受けの周辺で不審人物を見かけたら通報してほしい」と求めている。
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