無痛分娩の助成 安全に産める体制あってこそ
読売新聞 / 2025年1月27日 5時0分
少子化対策の一環として、出産の痛みを麻酔で和らげる無痛
ただ、麻酔科医の不足など課題は多い。安心して産める体制を整備しなければならない。
無痛分娩は出産の不安やストレスが少なく、産後の疲労を軽減して体の回復を早めるとされる。
近年は出産年齢の上昇でニーズが高まり、お産全体の1割を超えた。欧米では普及が進んでおり、米国やフランスは無痛分娩が7~8割に達している。
都は10月から、都内の医療機関で出産する東京在住の妊婦に最大10万円を支給する方針だ。
出産費用の全国平均は52万円近くに上り、東京では64万円を超えている。国は出産育児一時金として50万円を負担しているが、足りない場合も多い。無痛分娩を選ぶとさらに10万~15万円かかる。
年間の出生数が70万人を割ろうかという今、女性の負担を軽減し、出産をサポートしようという取り組みは理解できる。助成制度は、昨年の都知事選で小池百合子知事が公約に掲げていた。それが導入を急ぐ背景にあるのだろう。
だが、現状では、受け皿となる医療機関の人材確保や安全対策に不安が拭えない。
2017年には、無痛分娩後に妊産婦が死亡するといった重大事故が各地で次々に判明した。日本は他の先進国と違って診療所での出産が多いのが特徴で、産科医が一人で出産も麻酔も行う体制が事故の背景にあった。
助成をきっかけに無痛分娩の希望者が急増し、安全対策がおろそかなまま実施する医療機関が増えるのではないかと心配になる。
都は、麻酔科医か麻酔に習熟した医師がいる医療機関での出産を、助成の条件にするという。安全が保たれるよう、行政がしっかり目配りすべきだ。
最近は、診療所で無痛分娩を行う場合でも、連携する病院から麻酔科医の派遣を受けている例がある。産科医や助産師への研修など安全対策の強化は欠かせない。
無痛分娩は、時間が長引きがちで、赤ちゃんを器具で吸引するケースも増える。痛みが緩和されているため、異常に気づきにくいといったリスクも指摘されている。医療関係者の間でそうした情報を共有することが大事だ。
東京以外でも無痛分娩の希望者はいるし、今後も増えるだろう。安全な産科医療をどう構築し、出産を望む人への支援をいかに拡充するかは全国共通の課題だ。
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