1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

生活は夜型、執筆のお供は度数7%の缶チューハイ……覆面作家の住野よるさんの意外な素顔

読売新聞 / 2025年2月3日 15時30分

執筆がはかどるのは、夜の10時頃からだという

 若い世代に人気の作家、住野よるさんが、新刊『歪曲済わいきょくずみアイラービュ』(新潮社)を刊行した。世界の滅亡を信じる人たちが起こす予期せぬ行動を描いた連作短編集だ。デビューから10周年を前に、読者へ「ゆがんだラブレター」を送るつもりで、作品に挑んだという。(文化部 小杉千尋)

住野よるさん デビュー10年新刊…「期待、裏切りたい」

 デビュー以来、本名や年齢、性別を明らかにしていない。オンライン取材時の画面も、真っ暗なまま。姿形はさっぱり分からなくても、作品を読んでくれる「読者さん」への愛にあふれた人物のようだ。

 「読者さんに思っている気持ちで一番大きいのは愛情。でも、大好きだよ、愛しているよよりも、『しょうがないなあ』という気持ちが入っている。まっとうなものではなく、ゆがんだ愛情を伝えたいから、『歪曲済アイラービュ』なんです」

 「しょうがない」と思うのは、登場人物たちのひどい言動に、よく共感の声が寄せられるから。今作でも、ときに支離滅裂で、他人を傷つける人たちを描いた。

 冒頭の「滅亡型サボタージュ」から、物語は不穏な雰囲気だ。売れないユーチューバー「こなるん」はある日、動画で世界の滅亡を予言する。優等生だったはずの高校生、先生を「悪魔」だと言う子ども、幼なじみとの曖昧な関係に悩む大学生。同じように滅亡を信じた人たちは、良識のリミッターが外れたかのような行動を取り始める。

 <滅亡なんて、ずっと心のそばにある。愛や希望ではなく。滅びが>

 不可解な行動の背景は、人それぞれ。11の短編には、「普段自分が思っていて、読者さんにまだ言ったことがないこと」が必ず一つ以上、入っているという。「自分自身を出すような作り方は、これまでしたことがなかった」と振り返る。

 読者に語りかけるような会話調の文章に、突然、黒地のページが交ざることもある。整いすぎていない本の作りが、物語にきしみと疾走感をもたらす。

 「図書館戦争」シリーズなどが人気の有川ひろさんや、ホラーやミステリーで活躍する乙一さんに憧れ、高校時代から執筆していた。

 2015年に『君の膵臓すいぞうをたべたい』でデビュー。病気により余命わずかな女子高生と同級生とのやり取りを描いた物語は、300万部のベストセラーとなり、一躍人気作家となった。

 青春の群像劇から、恋愛の悲喜、日常のいとおしさを見つめたものまで、作品は幅広い。『歪曲済アイラービュ』は、「10周年のいっこ手前」の感覚だという。

 「まだ安定していないぞ、と読者さんに見せたい。『こんな作風を書くんだろう』という期待を裏切りたいんです。新しい小説というおもちゃを提供して、読者さんとずっと一緒に遊んでいられたらいいな」

 「よる」のペンネームの通り、生活は夜型だ。執筆時のお供は、アルコール分7%の缶酎ハイ。「ロマンチックなことを書く時、しらふだと恥ずかしくなっちゃうんですよね」。覆面作家の素顔は、案外、「照れ屋」なのかもしれない。

「君の膵臓」朗読劇 4月再演

 『君の膵臓をたべたい』は今年4月、東京都内で朗読劇が再演される予定だ。2022年12月の上演以来の再演で、新たなキャストを加えて物語の魅力を発信する。

 主人公の「僕」はある日、クラスメートの山内桜良の日記帳を拾う。桜良の秘密を知った僕は、桜良の「死ぬ前にやりたいこと」にかかわることになる。人づき合いが乏しい僕と快活な性格の桜良は、少しずつ距離を縮めていく。

 朗読劇は、「僕」を岡本信彦さんと梶裕貴さん、桜良を鬼頭明里さんと伊藤美来さんが、ダブルキャストで演じる。脚本・演出は保科由里子さんが手がける。

 住野さんは「10年も前の作品をもう一度、演じてもらえるのはうれしい」と喜ぶ。「『膵臓』を今書き直したら、文章は整っても、あの時のパワーはなくなる。どんなに拙くても、そのままの形の方がいい。情熱を注いで作られたフィクションが、いちばんかっこいい」と話している。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください