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虚偽内容の公正証書、不当な強制執行相次ぐ…詐欺グループが凍結口座の詐取金回収狙った例も

読売新聞 / 2025年1月29日 5時0分

 虚偽の内容の公正証書を発行させ、犯罪の被害回復のために凍結された口座に不当な強制執行が図られたケースが複数あることがわかった。詐欺グループが詐取金の回収を狙った例もある。公正証書は当事者の言い分を基に作成されるため、悪用リスクもあり、専門家らは対策が急務と指摘している。

虚偽認定

 「詐欺被害者の被害回復を阻止し、詐欺の遂行者が(凍結口座の)預金を自由に使うため、公証人に実体のない公正証書を作らせた」

 外国為替証拠金取引(FX取引)の名目で資金をだまし取られた被害者が、詐欺グループを相手取って起こした民事訴訟。グループは被害金が振り込まれた凍結口座に強制執行をかけていたが、2018年3月の大阪地裁判決は、執行の根拠となった公正証書について、こう指摘した。

 凍結された口座は、詐欺グループが管理する法人名義のものだった。無登録でFX取引への出資を募った事件として警察の捜査が進み、振り込め詐欺救済法に基づいて取引が停止された。

 しかし、法人の顧客が「約3億円を法人に貸し付けた」とする公正証書を作成し、裁判所を通じて強制執行をかけたため、被害者側が「犯行グループが口座から不正に資金を引き出すため、虚偽の公正証書を作らせた」として提訴した。

 訴訟では、詐欺グループに協力する元弁護士が凍結口座から資金を回収するために偽の公正証書を使う計画を策定していたことが判明。大阪地裁判決は「3億円の貸し付け」は虚偽だと認定し、強制執行を無効と結論付けた。

 被害者側代理人を務めた木村圭二郎弁護士は「こうしたケースは氷山の一角の可能性がある。虚偽の公正証書を作らせる行為を厳罰化するなど抑止力を高める必要がある」と訴える。

詐欺の主犯格

 ウソの公正証書を作成させたとして、刑事事件に発展したケースもある。

 12年に大阪府警が摘発した未公開株を巡る詐欺事件では、主犯格の男が、詐取金が入った凍結口座に強制執行をかけるため、公正証書に虚偽の内容を書かせたとして、公正証書原本不実記載・同行使罪で有罪判決を受けた。

 14年3月の1審・大阪地裁判決によると、男は、「凍結口座の名義人に約1億8000万円を貸している」とウソをつき、公証人に虚偽の内容の公正証書を作成させ、強制執行を申し立てた。詐欺の被害者も同じ口座に強制執行を図り、口座からの資金の流出は避けられた。

 被害者側代理人を務めた弁護士の一人は「犯罪者はウソをついて口座の資金回収を図ってくるが、被害者が資料をそろえて止めるには時間と労力がかかる」と語り、「被害者以外の第三者が凍結口座に強制執行をかけた時は、慎重に審査する仕組みが必要ではないか」と話した。

悪用防止を

 公正証書の作成に当たっては、公証人が当事者双方の本人確認を行い、金銭の貸し借りがあることなどがわかる契約書や領収書などを示してもらうのが原則だ。

 だが、裏付けとなる資料がないケースもあり、公証人の一人は「限られた資料で作成することもある」と明かす。「捜査権限があるわけでもなく、当事者が共謀していればウソを見抜くのはほぼ不可能だ」と語る公証人もいる。

 三木浩一・慶応大名誉教授(民事手続法)は「当事者双方から適切な聞き取りを行い、代理人の肩書や契約書の確認を怠らなければ、違和感に気付けるケースもあるだろう。基本的な職務を徹底すれば不当な公正証書の作成をある程度は防げる」と話す。

 凍結口座からの資金引き出しを巡っては、強制執行をかける根拠として裁判所の書面が悪用されるケースも発覚している。東京都内のコンサルティング会社が昨年、ベトナム人3人に「金を貸した」とうそをつき、裁判所に支払い督促の書面を発行させ、強制執行をかけていた。

 東京都立大の星周一郎教授(刑事法)は「被害を止めたはずの資金が犯罪グループに流れれば、公証制度や裁判所への信頼が損なわれる深刻な事態を招く」と警告。「凍結口座の資金は犯罪収益の可能性が高いことを前提に、被害者以外からの強制執行に応じるか、被害救済の観点から慎重に見極めできる対策が必要だ」としている。

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