藤井聡太竜王、29日に就位式…佐々木勇気八段との激闘を振り返る
読売新聞 / 2025年1月29日 10時11分
将棋の第37期竜王戦七番勝負は、藤井聡太竜王が挑戦者の佐々木勇気八段を退け、4連覇を果たした。就位式は29日午後6時から、東京都渋谷区のセルリアンタワー東急ホテルで行われる。藤井竜王に激闘となった七番勝負の振り返りと、印象的だったという第1局の自戦解説をしてもらった。(文化部 星野誠)
封じ手、勝負めし…佐々木八段の“新手筋”知らず集中
――今期の七番勝負は、挑戦者が盤上だけでなく盤外で趣向を凝らし、大変盛り上がりました。
藤井 佐々木八段は対局以外でお会いすると、いろいろと話しかけてくださる。私としても
――佐々木八段が毎局、用意周到な作戦をぶつけてリードする展開が多かったのですが、藤井竜王はそれを恐れずに飛び込んでいっていた印象があります。
藤井 もちろん指していて、相手の方に用意があるのかなということは感じます。ただ、それを避けようという判断基準で指し手を選ぶと、かえって選択肢を狭めてしまうことになる。今のところ、序盤は自然に指し進めようという方針でやっています。
――防衛後の記者会見で、印象に残った対局として第1局と第4局を挙げられた。第1局の封じ手では、通常は封筒の上下に名字を書くところ、「佐々木」「勇気」と氏名を書くという“新手”が出て、注目を集めました。
藤井 ああいうスタイルは初見でした(笑)。合わせようか迷ったんですが、判断するだけの時間がなかったので、無難に名字を書いてしまいました。
――勝負めしでも、佐々木八段が一度に二つのメニューを注文したり、同じデザートを4回連続で頼んだりして話題を呼びました。
藤井 局後に“新手筋”がいろいろ出ていたと聞きました。私にはとても思い浮かびません。対局中に知ったら、気おされていたかもしれないです。
――会心譜になった第1局とは対照的に、第4局は完敗でした。
藤井 振り返ってみても佐々木八段の構想に感心する一方で、こちらが自然に指しすぎたところがありました。自然と言うよりも平凡と言った方がいいかもしれません。もっと早い段階から踏み込んで読みを入れて、強い手を選んでいかなければいけなかった。
――封じ手時点でかなり形勢に差がつきました。
藤井 2021年の王位戦第1局以来ですが、こんなに苦しいとは思わなかった。封じ手の後、自室に戻って考えたんですが、2日目の午前中に終わる可能性が50%ぐらいあるなという結論に達して諦めました。こういうことではいけない。
――昨年で最も悔しかった対局とのことですが、どう気持ちを切り替えましたか。
藤井 まずはやっぱり、対局をしっかり振り返ること。ここが良くなかったということが分かれば、気持ちの面でも一つの区切りをつけられるので、それ以上は振り返らない。勝っても負けても、そういう感じがいいのかなと思っています。
――来期への抱負を。
藤井 苦しい展開が多かったものの、4勝2敗で防衛という結果を出せたことで、来期は永世竜王を目指すシリーズにできました。今年よりも成長した、強くなったと言える形で、来期に臨めるように取り組んでいきたいと思います。
七番勝負の結果(▲が先手番)
▽第1局=10月5、6日
セルリアンタワー能楽堂(東京都渋谷区)
▲藤井竜王 ○―● △佐々木八段
▽第2局=10月19、20日
あわら温泉 美松(福井県あわら市)
▲佐々木八段 ○―● △藤井竜王
▽第3局=10月25、26日
仁和寺(京都市)
▲藤井竜王 ○―● △佐々木八段
▽第4局=11月15、16日
おにクル(大阪府茨木市)
▲佐々木八段 ○―● △藤井竜王
▽第5局=11月27、28日
和歌山城ホール(和歌山市)
▲藤井竜王 ○―● △佐々木八段
▽第6局=12月11、12日
指宿白水館(鹿児島県指宿市)
▲佐々木八段 ●―○ △藤井竜王
※藤井竜王が4勝2敗で防衛
封じ手後の「9五歩」、ペースつかんだ強手
将棋界の天才2人が激闘を繰り広げた今期七番勝負。その第1局を藤井竜王に解説してもらった。
セルリアンタワー能楽堂で行われた本局は、開幕局のため振り駒が行われた。先手番になった藤井竜王は最も得意とする戦型の角換わりへと誘導し、佐々木八段も堂々と受けて立った。
「角換わりの出だしから相掛かりのように移行する、かなり珍しい展開になりました」。41手目▲5八玉(第1図)までは前例があり、藤井竜王も2023年1月、順位戦A級の豊島将之九段との対局で採用し、快勝していた。ここから△3五歩▲同歩△4四銀が佐々木八段の用意した新構想だったが、藤井竜王の研究範囲でもあった。
「実はこの形は、私も後手を持って『有力かな』と考えたことがあって。激しく行くなら▲7五歩の攻め合いもありますが、3六の地点を受けるため▲4七銀と引くのが後手にとって意外に嫌なので選びました」
この後、△3五銀▲3六歩△4四銀▲2四歩△同歩▲同飛△2三歩▲2九飛△8六歩▲同歩△同飛▲6七歩(第2図)までが想定した局面だった。「▲6七歩に対して、後手がどう指すか悩ましいという印象を持っていました」
以下は互いに研究を離れ、長考の応酬となっていく。△3四歩に2時間14分、▲5六歩に1時間14分、△6三銀に20分、▲4五歩に1時間18分。佐々木八段は47分考えて△3三銀(第3図)を封じ手にしたが、ここで▲9五歩が最も印象深い一手だという。
「▲8七歩と打って収めるか、この瞬間がチャンスと見て強く戦うか。方針の分かれ目ですが、強気の選択ができて、わずかながらペースをつかめた」
以下、△8八歩▲7七銀△8一飛▲8八銀△9五歩▲6六角(第4図)と進んだ。「▲9五歩と突いた時からの一連の構想です。銀がバックしていくので感触が良くないところはありますが、銀の跡地に角を設置して効果に期待した。指しやすくなった可能性もあるかなと思っていました」
佐々木八段は粘り強い指し回しで懸命に食い下がったが、持ち時間がわずかになったところで屈した。藤井竜王にとっては充実ぶりを物語る会心譜となった。
主催=読売新聞社、日本将棋連盟
特別協賛=野村ホールディングス
協賛=東急グループ、UACJ、旭化成ホームズ、あんしん財団、日本中央競馬会
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