「留置場で食べおいしかったから」と来店者も…「官弁」納入63年、小町食堂が休業
読売新聞 / 2025年1月30日 11時9分
鳥栖署内の留置場に勾留された容疑者らに出す弁当「官弁」を親子で約63年にわたり納めてきた佐賀県鳥栖市京町の仕出し弁当店「小町食堂」の齊藤洋美さん(65)に、同署から感謝状が贈られた。昨年5月まで一日も休まず官弁を作り続け、現在は病気療養のため休業中の齊藤さん。回復後には店と官弁作りを再開したいとの思いを温めている。(緒方慎二郎)
齊藤さんの店はJR鳥栖駅近くにあり、戦前の祖父母の頃に営業を始めた。公費で賄う官弁の業者として指定されたのは、父の實さん(故人)の代だった1961年。實さんの他界後は母のサツミさん(同)が続け、2003年に齊藤さんが引き継いだ。官弁の納入は父の代から約63年、齊藤さんに代替わりしてからだけでも約21年続いた。
齊藤さんが納入してきた官弁は朝昼晩の1日3食。朝はみそ汁をつけ、昼が魚料理だったら夜は揚げ物にするなど、決められた予算内で1日あたりの摂取カロリーを満たしつつ、献立に気を配った。容疑者の体調が悪いと聞けばおかゆを作り、アレルギー体質にも対応。年明けの頃には「少しでも正月気分を味わってもらえれば」と雑煮を作った。
料理は齊藤さんが1人で作った。午前3時に下ごしらえを始めると、同6時前には朝食を届ける。昼の配達はパート従業員に任せ、夕食はまた齊藤さんが午後4時頃に納めた。台風や積雪といった悪天候の際も休むことなく、23年3月にサツミさんが亡くなった際にも、通夜や葬儀の合間を縫って官弁を作った。
それでも、「苦に思ったことは一度もなかった。今日が終われば、また明日が来る。ただそれを繰り返してきただけ。特別なことをしたわけではない」と振り返る。
手がけたのは官弁だけではない。店の営業はもちろん、食事の量が足りない容疑者らが自費で注文する「自弁」のカレーライスや卵焼き、署員らの出前も受け付けた。「留置場で食べたご飯がおいしかったから」と言って、店に弁当を買いに来た人もいたという。
店の休業に伴い、官弁は別業者が納入するようになった。齊藤さんへの感謝状は23日、同署で尾形賢二署長から手渡され、署員らが大きな拍手でたたえた。
「毎日、何を作ろうかと考えるのが楽しかった」という齊藤さん。「この仕事をさせてもらえたことは、自分にとっては信用の証しで、続けられることが一番の喜びだった。父と母がずっと続けてきたことでもあり、体力を戻して再開したい」と語った。
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