欧州政治に介入 SNSが選挙を左右する危険
読売新聞 / 2025年1月30日 5時0分
絶大な財力と発信力を誇る人物が、SNSを駆使して偏った言説を他国向けに広げれば、選挙結果すら左右しかねない。欧州が警戒感を強めているのは当然である。
米実業家イーロン・マスク氏が、ドイツと英国の右派勢力への支持を相次いで表明した。
ドイツでは、所有するX(旧ツイッター)で野党「ドイツのための選択肢」のワイデル共同党首と対談し、2月の総選挙で同党に投票するよう呼びかけた。一方、ショルツ首相については「無能」と決めつけ、辞任を求めた。
ショルツ氏が「ドイツの将来を決めるのはSNSオーナーではない」と断じたのも無理はない。
マスク氏は、英国では右派の野党・改革党を支持すると、Xで宣言した。スターマー首相の交代を画策しているとの見方もある。
欧州各国の選挙では、欧州統合や移民の受け入れに反対する右派勢力が躍進し、政権政党を脅かしている。そうした中でのマスク氏の言動は、フランスのマクロン大統領が指摘するように「選挙介入」と取られても仕方あるまい。
Xは世界で数億人が利用し、マスク氏自身も2億人以上のフォロワーを抱えている。しかもマスク氏はトランプ米大統領から官僚機構改革のトップに起用された。発言には責任が伴い、単なる個人の意見表明では済まされない。
そもそも米国の要人が、同盟国である英独の政治に混乱を引き起こしている状況は異様だ。
米欧間ではロシアの侵略を受けるウクライナへの支援や、関税政策を巡って亀裂が生じている。マスク氏がもたらしたSNSの弊害が、さらに溝を深めかねない。
欧州では、外部勢力などによってSNSを通じた違法な情報工作が日常的に行われ、選挙の公平性を揺るがしている。
ルーマニアでは昨年11月の大統領選挙の1回目投票で、
候補者がインフルエンサーに報酬を払って宣伝を行わせていたことのほか、ロシアが選挙に介入した可能性が捜査当局に指摘された。憲法裁判所は選挙の無効を宣言し、大統領選をやり直すことになった。極めて深刻である。
欧州連合(EU)はSNS上の不正行為の広がりを重く見て、実態調査に乗り出した。日本の選挙でもSNSの活用が広がっている。欧州と知見を共有することも必要ではないか。
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