マレーシア発の感動作「Brotherブラザー 富都のふたり」…光と影が語る哀切な兄弟愛、過酷な現実
読売新聞 / 2025年1月31日 11時0分
映像が語る、光と影が語る。「Brotherブラザー
クアラルンプールのプドゥは、生鮮食料品の屋外市場などで知られる街区。古くからあるその街で、主人公の若者ふたり――優しく思慮深いアバン(台湾の俳優、ウー・カンレン)と、向こう見ずなアディ(マレーシアの俳優、ジャック・タン)――は、支え合って生きてきた。マレー語でアバンは兄、アディは弟。ふたりに血のつながりはないが、子供の頃から深いきずなで結ばれている。ゆで卵は額で割って食べるという、彼ら独特の作法にも、実は、由来がある。
住まいはプドゥの一角にあるスラム街のアパート。ふたりとも親の愛を知らない。生活に欠かせない身分証(ID)もない。IDがないから、自力では家も借りられないし、携帯も手に入れることができない。仕事も選べない。ろうあ者である「兄」アバンは低賃金で市場の下働きをしている。「弟」アディは裏社会の危なっかしい仕事に手を出している。いずれにせよ、不安定な身分。当たり前の人権さえ享受できない。
福祉ボランティアの女性ジアエン(セレーン・リム)の骨折りで、アディに関してはID取得実現の可能性が出てくるが、そのためにはある人物と会わねばならない。アディは動揺し、思わぬ事態を引き起こす。
アバンとアディのいるアパートには、彼らにとって姉のような母のような存在のトランスジェンダー女性、マニー(タン・キムワン)や外国人労働者、そして家族とともに母国から逃れてきたミャンマー人女性シャオスー(エイプリル・チャン)などが住んでいる。周縁に追いやられている人々が織りなす物語を通し、監督のジン・オングが、世界の不均衡、理不尽を描き出そうとしていることは明白だ。言葉以上に、映像の力をもって。
この映画には、つやがある。光沢がある。眼福でもある。その源泉は人の姿、特に主人公のふたりだ。中盤までのアバンとアディは、つやめき、時には発光しているようにさえ見える。彼らの肌は多くの場面で汗にぬれ、上気しているのだけれど、つやの理由は、もちろん、それだけではないだろう。不当に軽んじられている者たちの命の手触りをしかと伝えようとする監督のまなざしが、卓越した撮影や照明、美術によって具現化され、えも言われぬ輝きをこの映画に与えているのだと思う。
映画を彩るさまざまな光、色彩は、命の輝きの投影のようだ。その一つが、アバンがアディのために用意した料理とゆで卵が置かれた食卓を照らす小さな光。真っ暗な部屋の中で確かな存在感を放つ。
ほかのシーンでも光や色彩が強い印象を残す。たとえば、マニーとともに過ごす「家族」の時間を包み込む光。たとえば、ひかれ合うアバンとシャオスーが共に過ごす時間を彩る金魚、ふんわりとしたスカーフ。たとえば、兄弟でダンスするシーンの光の赤……。世界はある時点までは、どこか柔らかさを感じさせる。
だが、後半は様相が変わる。兄弟、とりわけ獄中の人となるアバンはひとり、光が作る影の中へ。やがて彼が、これまでの人生で抱えてきた思いを、手話で吐露するシーンに胸を突かれない人がいるだろうか。ウー・カンレンの
その後、
ジン・オング監督は1975年生まれ。自ら監督・脚本を務めるのは本作が初めてだが、以前から社会派作品のプロデューサーとして活躍。確かなまなざしと豊かな経験の力を感じさせる感動作だ。
◇「Brotherブラザー 富都のふたり」(富都青年/Abang Adik)=2023年/マレーシア・台湾/上映時間:115分/配給:リアリーライクフィルムズ=1月31日から、東京・ヒューマントラストシネマ有楽町ほか、全国順次公開
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