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かつて坪当たり売り上げ全国1位のスーパー閉店、人口減で淘汰された古き良き商店の志

読売新聞 / 2025年2月2日 9時2分

熊谷さん(左)から鮮魚の仕入れについてアドバイスを受ける畠中さん(1月27日、白老町の「ラッキーマート白老店」で)

スーパー新時代<中>

 北海道白老町の「ラッキーマート白老店」の売り場は鮮魚コーナーから始まる。続いて青果、最後が精肉だ。陳列は青果から始まるのが一般的だが、昨年8月に引き継いだ「スーパーくまがい」の仕様をそのまま残した。

 「従業員を路頭に迷わせる前に引き取ってもらえてよかった」。「くまがい」元会長の熊谷威二たけじさん(81)は、淡々と閉店の決断を振り返る。

 大昭和製紙(現・日本製紙)に入社したが、5年で退社。退職金の5万円を元手に購入した中古トラックで魚や野菜の行商を始めた。1979年にスーパーを開店すると、徐々に売り上げは上昇した。80年代には約60坪の店舗で年間9億円を売り上げ、坪当たりの売り上げ全国1位になった。

 行商時代に店を支えてくれた常連客の「足が悪くなって店に行けない」という声に応え、2006年には無料の「買い物バス」を開始。19年まで週に6日、高齢者らを乗せてスーパーまで往復した。病院や幼稚園など約100団体へは配達料を取らずに商品を届けた。「お客さんが先生。頼まれることをこなすうちに経営者になれた」という。ただ、人口減が進み、資材費も高騰する中、利益度外視の手厚いサービスは企業としての体力をじわじわと削っていった。

 ラッキーマート白老店の初代店長となった畠中喜幸さん(45)は、時折店に顔を出す熊谷さんから鮮魚について助言を受けつつ、効率化を進めている。精肉のパック詰め作業は加工センターに集約し、ファクスを使っていた仕入れもオンライン化。従業員の週休は1日から2日に増えた。

 常連客からは「地域にスーパーが残ってよかった」(75歳主婦)などと喜ぶ声が相次ぐ。「通路の狭さやお肉の管理が改善された」(59歳主婦)という冷静な意見も上がる。

 「ラッキー」など33店舗を展開する北雄ラッキーは「くまがい」の承継で得た鮮魚の仕入れノウハウを生かし、白老沖で揚がる鮮魚を札幌などの店で売り始めた。畠中さんは「良いところは残し、時代に合わないところは変え、お店を前に進めたい」と話す。人口減で淘汰とうたされた古き良き商店の志は、形を変えて引き継がれている。

 国の研究機関「農林水産政策研究所」は、自宅から商店まで500メートル以上あり、車を利用できない高齢者を「食料品アクセス困難人口」として集計している。道内は人口の26・8%(20年)で、75歳以上では35%と、いずれも全国平均を上回る。「くまがい」が営業を終えた2日後の昨年8月18日には、北見市の「イトーヨーカドー北見店」が閉店。鉄道や路線バスの廃止も重なり、「買い物難民」は今後も各地で増え続ける懸念がある。

 過疎地からの「撤退」が進む中、札幌市の「コープさっぽろ」は細かな配達網や移動販売を重視している。1981年に「月例協同購入」という名称で始まった配達サービスは、2006年に「トドック」となり、現在約48万世帯が登録。道内の2割に当たる。地方のスーパーが閉店後、「トドック」利用者が増えるケースもあるという。

 札幌市西区で一人暮らしの女性(70)は食料品や雑貨を毎週購入している。運転免許を持たず移動が徒歩に限られるため、「家まで持ってきてくれるのが本当に助かる」と配達員をねぎらう。

 コープが主に過疎地で運行する移動販売車「おまかせ便カケル」も年々台数を増やし、現在は97台が137市町村を回る。大見英明理事長は「宅配は人口減少に強いビジネスモデルで、見守りの機能もある。地域を支えるという社会的使命を背負って続けていきたい」と話している。

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