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高校時代の伊坂幸太郎さん、あこがれのミステリー作家の島田荘司さんの理論が分かったつもりだったが

読売新聞 / 2025年2月7日 15時15分

 洗練された文章と軽快な物語で幅広い世代から人気の作家、伊坂幸太郎さん(53)は今年、デビュー25周年を迎えます。先月には、記念の書き下ろし短編『楽園の楽園』(中央公論新社)を刊行しました。「子どもの頃から、好きな本を人に薦めることが好き」という伊坂さんの大切な4冊を語っていただきました。

『本格ミステリー宣言』島田荘司著(講談社文庫) 品切れ

大好きな島田作品

 「島田荘司さんがいないと、『伊坂幸太郎』っていないんですよ」

 本を片手に、インタビュー開始時から熱く語り始める。高校生の頃から、『占星術殺人事件』でデビューし、1980年代から本格ミステリーの世界をリードしてきた作家の島田さんの作品が大好きだという。

 『本格ミステリー宣言』は、島田さん自身が本格ミステリーとは何か、論考を深めた一冊だ。本格ミステリーの条件は、読者をきつける「美しい謎」と、それを解決する「(せい)()な論理性」であると説く。

 探偵役や殺人事件、トリックの有無は気にしなくてもいい。シンプルな論に魅了された。「僕は当時、島田理論を完璧に理解したと思っていたんです」と振り返る。

 同作の後記に、こんな一文があったことをよく覚えている。

 <あまり広いとはいえない日本列島だが、この中には、現在の推理文壇を(しん)(かん)させるような才能が潜んでいると信じている。本書は、そういう君への熱い呼びかけだ>

 「『島田さん、ここにいます! 千葉の松戸(伊坂さんの出身地)にいます!』という気持ちだった」と笑う。大学に受かったら、島田理論が正しいことを証明しよう。そのために小説を書こう、と決意した。

読みたいもの書く

 ところが、90年に東北大進学後、初めて書いた物語は、読んでも全く面白くなかった。美しい謎もさっぱり思い浮かばない。本格ミステリーは諦め、「自分の読みたいもの」を書くことにした。思いついたのが、モラトリアムに陥っている若者とハードボイルドが合わさった物語。大学2年生の頃に書き始めたものは、「ほぼ今の作風」だという。

 「僕の唯一の才能は、自分には(本格ミステリーが)向いていないと気づけたこと。別の方向に行ったのが良かったんですね」

 働きながら執筆を続け、2000年に『オーデュボンの祈り』でデビュー。『ゴールデンスランバー』で本屋大賞と山本周五郎賞、『逆ソクラテス』で柴田錬三郎賞を受賞した。ミステリーともファンタジーとも言い切れない。爽快感のある展開に、軽妙(しゃ)(だつ)な会話が飛び交う。その伊坂作品の魅力は、新刊『楽園の楽園』でも健在だ。

 大規模停電や強毒性ウイルスの(まん)(えん)、飛行機墜落事故などの多発で混乱に陥る世界。原因と思われる人工知能「天軸」の暴走を止めるため、世界から選ばれた()(じゅ)()(ひこ)(さん)()(じょう)(ちょう)(はっ)(かい)の3人が旅に出る。井出静佳さんのカラーイラストがふんだんにあしらわれ、見た目にも楽しい一冊だ。

 「自分が小説を書くのも、こんな面白い話があるんだよ、と紹介することの延長なんです。たまたま自分で思いついたから、書いているだけで」

ハリウッド映画化

 近年は、英国の権威あるミステリー文学賞、ダガー賞の候補にたびたび名が挙がり、『マリアビートル』がハリウッド映画化されるなど、国際的な評価も高まっている。

 向かうところ敵なしかと思いきや、編集者からは毎度のように、「話の筋がないです」「読者が何を追っていいのか分からないです」と突っ込まれるという。

 「話の脱線が好きなんです。ストーリーがなくても面白ければいいじゃないか、小説に目的がなくてもいいじゃないかと思ってしまう。編集者に指摘されて、僕が直そうとするから、それで作品が成り立っているのかもしれない」

 ベテランと言われるようになっても、執筆は試行錯誤ばかり。「指摘は助かっていますけど……。25年もやっていて、みんなもこんなに言われるのかなあ」。隣に座る編集者をちらりと見て、首をひねった。(小杉千尋)

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