ＮＹタイムズ「行くべき５２か所」選出の富山市、観光客が急増…ガラス美術館や喫茶店の客２倍

「珈琲駅　ブルートレイン」を訪れた観光客（３日、富山市で）

　米紙ニューヨーク・タイムズが世界の旅行先として「２０２５年に行くべき５２か所」に富山市を選出してから、７日で１か月となる。記事で言及された飲食店や美術館では来客数が急増し早くも効果が出始めている。影響は、富山県内全体にも広がりを見せている。（上田津希乃、深井陽香、原中翔輝）

記事を読んで来店

　「記事を読んで富山に来た。コーヒーがおいしくて店の雰囲気もすてき」。３日、記事で取り上げられた喫茶店「珈琲駅　ブルートレイン」（富山市鹿島町）で、アメリカの教員（２５）は笑顔で話した。

　同紙は先月７日「混雑を避けながら、文化的な感動や美食を楽しめる」として市を選出。「おわら風の盆」や市ガラス美術館、居酒屋やカレー店とともに「ブルートレイン」を紹介していた。

　鉄道模型を眺めながらコーヒーを味わえる同店では、客数が掲載前の約２倍に急増し、ここ１か月はほぼ満席が続く。一番人気の「水出しコーヒー」を多くの客に味わってもらえるよう、カップも５、６個増やした。店主の妻の中村晴子さんは突然の出来事に疲労困憊（こんぱい）だったが、「多くの人が来てくれてうれしい。旅の計画を立てながらゆっくりと店の雰囲気を味わってほしい」と充実した様子だった。

展示に変更も

　同紙で「木材と光でできた、そびえ立つ大聖堂」と例えられた市ガラス美術館では、能登半島地震の影響を受ける前の２０２３年と比べ、１月の来館者数は２倍以上の２万３０８９人に増加した。例年２月上旬は来館者数が減る傾向にあるというが、中国や台湾などの旧正月「春節」の影響もあり、今年は減っていない。

　一方で懸念されるのが、作品との不意の接触だ。同館では手が届く距離に多くの作品がある。土田ルリ子館長によると、作品をガラスケースに入れるなど展示方法の見直しも検討している。館内表記は日本語と英語のみだが、多言語対応も予定している。土田館長は「お客さんと作品、どちらも守りながら、気持ちよく見てもらえるよう気を配りたい」と話していた。

　市によると、国が１月の同市の外国人延べ宿泊者数を集計中だという。

県全体に波及効果

　選出の影響は、市外にも波及している。高岡市の鋳物メーカー「能作」によると、鋳物をつくる体験に参加した１月の外国人客は、前年比２倍程度に増えた。団体客に加えて個人客が急増し、欧米客も目立つという。能作千春社長（３８）は「高岡でも、注目の高まりを感じる」と実感。「県全体が盛り上がって、リピーターが増えればいい。富裕層向けの企画を作りたい」と意気込んでいた。

　氷見市の商業施設「ひみ番屋街」（北大町）は連日アジア圏からの観光客でにぎわう。運営会社「氷見まちづくり」によると、昨年１１月～今年３月、台湾からの団体客の予約が１０件入った。１件あたり３０～４０人規模で、地元の刺し身や氷見うどんなどの夕食を楽しむ。これまで海外からの団体客の予約は、年間２件程度だった。同社の本多正樹事業課長は「富山湾越しの立山連峰の景観といった氷見の魅力のほか、地震からの復興を支援したい気持ちもあるのでは」と話した。

　新田知事は、４日の記者会見で「予算に様々盛り込もうとしている。インバウンドの恩恵を富山市だけでなく、県下全域に波及させていきたい」と話した。