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国の重文「中家住宅」、近隣のたき火燃え移り修理費5億円…公費補助も所有者の負担2500万円に

読売新聞 / 2025年2月8日 15時45分

火災で壊れた住宅の主屋を見つめる中さん(奈良県安堵町で)=前田尚紀撮影

 昨年7月に火災に見舞われた国の重要文化財「中家なかけ住宅」(奈良県安堵町)の所有者が、修理費をまかなうため、クラウドファンディング(CF)に乗り出した。文化財の復旧は専門的な調査や部材が必要で、公費の補助があっても所有者の負担は高額となることが多い。(奈良支局 遠藤絢子)

 「知名度が低いので、どこまで寄付が集まるだろうか……」。中家住宅の21代目当主・中寧なかやすしさん(66)は不安そうに話す。

 同家は二重のほりを巡らせた江戸初期の環濠かんごう屋敷で、1968年に重文に指定された。昨年公開された映画「鬼平犯科帳 血闘」では、ロケ地の一つとなった。

 火災は近隣住民のたき火が燃え移ったとみられ、約10年前に大幅に葺き替えた主屋の茅葺かやぶき屋根が焼け落ちた。名物だった400年以上前に漬けられた梅干しは、つぼが割れて水浸しになったという。

 柱などは残ったため、文化庁の調査で「文化財としての価値が消えるほどは燃えていない」とされ、復旧を目指すことになった。

 ただし、修理費は約5億円。同庁によると、どんな部材が使用されていたのかを把握するための調査費や、資材の高騰などで費用がかさむという。95%は国と県、町から補助が出るが、残る5%(約2500万円)は所有者の負担となる。

 同家は火災前、有料で住宅内を一般公開していたが、入場料は大人1人500円で、収入は年50万円ほど。修理費を捻出するのは困難で、ひとまず500万円をCFサイト「レディーフォー」で募集することにした。中さんは「老後の暮らしを考えても、自前で修理費を工面できない。地元に愛されてきた場所なので、何とか復旧に協力していただきたい」と呼びかける。

「CFなければ不可能」

 文化庁によると、国宝や国の重要文化財に指定された建造物は全国に2500件以上あり、2015~24年度に10件の火災が起きた。

 火災の修理費は、文化財保護法で国が85~50%を補助する。自治体によっては、さらに補助を上積みする制度がある。それでも費用をまかなえず、寄付に頼らざるを得ない所有者は多い。

 22年9月、落雷による火災で国宝の本殿の檜皮葺ひわだぶき屋根が焼損した香川県坂出市の神谷かんだに神社は、修理費が約2億円とされた。

 神社側は5%の1000万円を負担することになったが、氏子は高齢者が多く工面に苦労した。CFで2000万円を集め、23年10月に着工できたという。宮司の中尾格さんは「CFがなければ、資金集めは不可能だった」と振り返る。

 火災に遭った10件の国宝・国重文で、復旧を断念した建物はない。しかし、公的な補助が少ない「国登録有形文化財」では、復旧を諦めるケースがある。

 昨年4月、山口県下関市の「めぐみ幼稚園」で起きた火災では、明治期に外国人宣教師の住宅として使われた第二園舎が半焼。復元に約1億円かかるため、同園は文化財指定を諦め、園舎を新築することを決めた。

 文化庁によると、文化財は燃えやすい素材が多いため、国は消火栓やスプリンクラーの設置費を補助している。同庁の担当者は「国としては、防火対策をしっかりやってもらうようお願いするしかない」とする。

 西山要一・奈良大名誉教授(保存科学)は「文化財は火災のリスクが高く、建物の価値判断も難しいため、火災保険への加入が困難な場合が多い。国は所有者が再建を断念することがないよう、公費の補助だけでなく、民間企業や自治体を巻き込んで基金を整備するなどの対策をするべきだ」と指摘する。

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