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八潮・運転手捜索に三つの壁…「大量の水」「軟弱地盤」「有毒ガス」、頭抱える県幹部「正直手詰まり」

読売新聞 / 2025年2月9日 9時7分

 埼玉県八潮市の県道が陥没し、トラックが転落した事故では、男性運転手の本格的な捜索活動にいまも着手できずにいる。1月28日の発生から既に2週間近く。全面復旧には2、3年かかるとの指摘がある中、復旧作業に移る前提となる捜索開始には、三つの「壁」が立ちはだかる。(さいたま支局 宮川徹也)

自粛効果乏しく

 「上から落ちてくるリスクは減ったが、水もあるし土砂もある」。陥没事故の現場で「宙づり」状態になっていたコンクリート製の農業用水路の撤去は、夜を徹した作業で8日に完了したが、草加八潮消防局の幹部は同日夕、厳しい状況が続いていることを強調した。

 当初、穴の大きさは直径10メートルほど。救助隊は転落した男性運転手と会話もできた。そのため、短時間での救出が可能と思われていたが、それを阻んだのは穴内部にたまる大量の水だ。

 最初は雨水だった。陥没のため地中にあった雨水管がゆがんだ影響で水が流れ込み、県が上流域に土のうを積み上げるなどして流入を止めた。

 しかし、今度は破損した下水道管から下水が湧き出した。陥没現場の下流部がコンクリートやアスファルトなどのがれきで詰まり、下水の流れがせき止められたことが理由とみられる。

 県は、穴の中の水位を下げるため、事故当日の28日午後から上流部の12市町、約120万人に排水の自粛を呼びかけている。2月4日午後2~5時には「可能な限りの節水を」と強く要請したが、下水の流量を減らす効果は「期待したほど見られなかった」(大野元裕知事)ため、強い要請はこの日だけで終わった。「正直手詰まりだ」と県幹部は頭を抱える。

6000年前は海

 八潮市がある埼玉県東部は、中川や綾瀬川など河川に囲まれた低地。市によると、6000年前には遠浅の海だったという。

 関東地方の地質に詳しい、だいち災害リスク研究所の横山芳春所長(47)によると、泥や砂が多い土壌で、地表から20メートルほどは特に脆弱ぜいじゃくな地盤とされる。地下水の水位も高く、県東部の建設業者によると「1メートル掘ると水が出てくる」という。

 現場では29日未明に二つ目の陥没が発生し、30日未明には現在の一つの大きな穴になった。その後も路面の陥没や、穴の側面の崩落が続いた。県は現場近くの土壌に薬液を注入して地盤を強化する改良工事を実施するなどして、対策を進めている。

高濃度の硫化水素

 5日、転落したトラックの運転席部分とみられるものが現場から100~200メートル下流部の管内で見つかった。男性運転手はこの付近にいる可能性がある。捜索には管内に入る必要があるが、新たな「壁」となるのが有毒な硫化水素だ。下水に含まれる排せつ物などの有機物から発生する。

 厚生労働省によると、2023年までの20年間で、硫化水素中毒による労働災害は68件発生し、計36人が死亡した。下水道管点検でマンホールに入る際の事故などが多いという。

 県関係者によると、管内では健康に害を及ぼす高濃度の硫化水素が確認されている。消防隊員は日頃から有毒ガスの発生を想定した救助訓練を行っているが、今回の事故現場は直径4・75メートルの巨大な管の中。下水の流量が多く、その分、硫化水素が発生するリスクも高い。

 埼玉県深谷市の元消防長で危機管理防災アドバイザーの田中章氏(65)は「下水が流れ、硫化水素が充満している環境は、消防隊員が活動できる限界をはるかに超え、大変危険だ」と指摘する。

 事故当日には、クレーンで穴の中に入った隊員2人が崩れてきた土砂で負傷している。穴の中で水は湧き続けており、作業は行き詰まり状態だ。

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